おはようございます。
弁理士の渡部です。
商標と事業においては、次のような関係があります。
(1)商標は事業と密接に結びついています。商品・サービスの目印となるからです。
(2)事業は年数を経ると、ニーズや社会情勢の変化によってその内容が変わる可能性があります。
(3)商標は一旦登録を受けると、権利内容を変えることができません。
とあるA社のお話。
A社は、独自の製法でとても美味しい豆を開発し、この豆を製造・販売しようと事業計画を立てました。
A社は、事業開始に先立って、この商品について使う商標「仙豆」をとることに決めました。
A社は、専門家に「どのような商品に使う予定ですか?」と尋ねられ、「豆です。」と答えました。
専門家は、これを受け、指定商品を「豆」と記載し、商標出願をしました。
似たような商標もなく、数ヶ月後、無事に登録を受けることができました。
ところが、数年後、「豆」が思ったように売れず、A社は、試行錯誤を繰り返した結果、自社が開発した豆を独自の製法で調理すると独特の甘みが出て、おいしい煮豆を作ることに成功しました。
同時に、その煮豆を使ったお菓子も開発しました。
A社は、豆の販売を止め、新しく開発した煮豆と、その煮豆を使ったお菓子を製造・販売し始めたところ、これがヒット商品となり、たちまち「仙豆」は有名になりました。
しかし、A社のとった商標権はどうでしょうか。
指定商品を「豆」としているので、商標「仙豆」を使って「煮豆」や「菓子」を販売する行為は、権利の範囲外になってしまいました。
「煮豆」「菓子」は、「豆」とはまったく異なる商品だからです。
A社は、新たな商品に切り替えたときに、このことに気付いたでしょうか。
おそらく、よほど商標に詳しくない限り、気付くことはないでしょう。
専門家は、このように事業内容が変わる可能性を考慮し、特に事業を立ち上げる際に商標出願する場合は、「豆」だけでなく、「豆の加工品」も多数検討し指定商品に含めておくことを提案することが求められます。