おはようございます。
弁理士の渡部です。
商標の相談で次のようなお話がありました。
「商標は文字数が少なければ少ないほど強い商標といわれたので、私の商標もできるだけ少ない文字数の組み合わせで取得した方がよいのでしょうか?」
つまり、相談者の商標が「鎌倉日和」なら、商標「鎌」、商標「倉」、商標「日」、商標「和」の4つの商標についてそれぞれ商標登録を取得した方が強い商標権になるという話でした。
話を詳しく聞くと、例えば、商標「鎌」について商標登録を取得すれば、「鎌」という文字を含むあらゆる商標に権利が及ぶから、文字数が少なければ少ないほど対象となる商標が増え、結果として強いということのようです。
例えば、他社が「鎌倉」「鎌取」「鎌ケ谷」「草刈り鎌」といったように「鎌」の文字を含む商標を使った場合に、商標「鎌」の商標権で使用を止めさせることができる、ということのようです。
分からなくもないですが、商標に関していえば、この考え方は正しくありません。
商標の実務において、上記のようにしばしば「含む」という考え方が出てきますが、商標でいう「含む」とは、文字列の一部に含んでいればよいという意味ではなく、商標をぱっと見たときに、一部に含まれているその商標が単独で認識できることが必要です。
分かりやすい例で説明します。
商標「せが」について商標登録を受けた場合、商標「せがれ」を使っている他社に対し、使用を止めるよう求めることができるでしょうか。
上記の考えでいけば、商標「せがれ」は商標「せが」を含みますから、商標「せが」の商標権で使用を止めさせることができることになります。
しかし、消費者が商標「せがれ」をぱっと見たときに、本当に「せが」が含まれていると思うでしょうか。
「息子」という意味の言葉として受け取り、それ以外の言葉が含まれているとは思わないのが自然です。
したがって、この場合、 商標「せがれ」は商標「せが」を含まない、と考えるのです。
このように考えるのは、商標は、消費者が商品を区別するための目印としての役割を果たすものであり、消費者が商標を見たときにどのように受け取るかという視点で考えるものだからです。
もう少し他の例も挙げてみます。
商標「サターン」は、「ターン」の文字を含みますが、消費者が商標「サターン」を見たときに、「悪魔」という意味の言葉以外の言葉が含まれているとは思いません。
ですから、商標「ターン」の商標権を持っていても、商標「サターン」を使っている他社に対し、使用を止めるよう求めることは難しいといえます。
消費者が商標「サターン」を見て商標「ターン」と間違えることは考えづらいからです。
したがって、この場合、商標「サターン」は商標「ターン」を含まない、と考えるのです。
では、商標「アルバイト」と商標「アルバ」の関係について考えてみてください。
商標「アルバイト」は商標「アルバ」を含む、と考えるでしょうか。それとも含まない、と考えるでしょうか。
例えるなら、商標は、パズルの1ピースといえます。
パズルの1ピースだけを見たときは、そのピースの形や模様を認識することができますが、パズルの中にはめ込まれパズルが完成すると、そのピースはもはや他のピースと一体となってしまい、パズル全体の絵としてしか認識できなくなります。
つまり、完成したパズルは、そのピースを含んではいるが、ピース単体では認識できないというイメージです。
ちょっと分かりにくい話だったと思います。
自分の商標に思い入れがあってどうしても自分の視点で判断をしがちですが、商標は、消費者がどのように受け取るかという視点で考えることが大切である、ということを覚えておいていただくとよいでしょう。
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