こんにちは、弁理士の渡部です。
NHK大河ドラマで今春放送開始した「おんな城主 直虎」にちなみ、「直虎」という商標が既に、長野県須坂市のみそ・醤油製造会社によって登録されており、舞台となる浜松市が「直虎」の名前をお土産品などに自由に使えず困るというトラブルが起こっています。
今回のトラブルは使いたい商標を守る上で、誰もが知るべき商標制度の大原則を教えてくれます。
目次
大河ドラマ「おんな城主 直虎」で商標騒動勃発
NHK大河ドラマで今春放送開始の「おんな城主 直虎」にちなんだ、商標登録の問題がニュースで報じられています。
「直虎」という商標が既に、長野県須坂市のみそ・醤油製造会社によって登録されており、舞台となる浜松市が「直虎」の名前をお土産品などに自由に使えず困っているというものです。
原則として歴史上の人物名については、商標登録を受けることができません。
問題となっている商標登録も、この歴史上の人物名に該当するのではないかという点があるのですが、これまでの事件とは背景が異なるので、その背景からご紹介します。
まず、NHK大河ドラマの主人公となっている「直虎」は、遠江国の井伊谷(浜松市)の城主「井伊直虎」を指しています。
これに対し、問題となっている商標登録の「直虎」は、長野県須坂市の第13代藩主「堀直虎」を指しています。
商標登録の権利者は、「堀直虎」の没後150年イベントが開かれるのに合わせて、地元のPRのために商標登録を取得したのに、浜松市から異議申立を受けてしまいます。
結論からいえば、商標登録取得の意図の点で、浜松市による異議申立はまったくの誤解です。
以下、その理由をご紹介します。
「直虎」だけで「井伊直虎」と世間からは広く認識されていない
歴史上の人物名について商標制度は、次のような基準で判断するよう運用されています。
まず冒頭でお伝えしたとおり「徳川家康」のようなフルネームは当然、商標登録が認められません。「福沢諭吉」にも商標登録が認められなかった過去があります。
このほか、「直虎」のように名前だけ、略称、異名、芸名も、商標登録が認められない場合があります。
これらが歴史上の人物名として商標登録から排除されるには条件があるのです。
それは、フルネーム、名前だけ、略称、異名、芸名であっても、その人物名が特定の人物を表すものとして広く認識されているものでなければならないというものです。
つまり、問題となっている商標登録の「直虎」は、「直虎」という名前だけでは、「井伊直虎」を表すものとして広く認識されているとはいえないと特許庁の審査で判断されて登録が認められています。
「家康」のように、名前だけで「徳川家康」だと誰でも分かるものではないという判断であったというわけです。
商標制度の大前提は「最初に出願した人に商標登録を与える」こと
浜松市は、お土産などに「直虎」の名前を使いたかったのに、なぜ商標登録をしなかったのでしょうか。
しかも、他の人が悪意なく商標登録を取得した段階になって、その人の権利を排除する異議申立の手続をわざわざ行ったのでしょうか。
行政の立場で、しかも自分たちが使いたいのであれば、自らが商標登録を取得し、広く一般に使ってもらうという穏便な選択肢も検討できたのではないかと思います。
特許庁が、「特定の人物を表すものとして広く認識されている名前」という条件を付加し、歴史上の人物名を一律に排除しないのは理由があります。
それは、我が国の商標制度は、最初に出願した人に商標登録を与えるという仕組みを大切にしているからです。
最初に出願した人の権利をできるだけ尊重し、その権利がもし他に大きな不利益を与える場合に調整するという立場をとっています。
ですから、歴史上の人物名を一律に排除するのではなく、最初に出願した人の権利を調整する線引きとして、「特定の人物を表すものとして広く認識されている名前」という条件を設定しているのです。
使いたいブランド名があるなら「まずは商標登録を取得する行動を起こせ」
この事件を通じてお伝えしたいことは、「歴史上の人物名は名前だけなら取れる場合があるかもね。」ということではありません。
我が国の商標制度が大切にしている仕組みがあること、それは最初に出願した人に商標登録を与えるという仕組みであり、この仕組みを知って行動することが大切だということです。
商標登録できるかどうかグレーな商標というものはあります。
ですが、もしそれを自分がお土産などに使いたいのであれば、誰も商標登録を取れないから当然使えると思い込まず、商標登録を取得するという行動を起こすことが必要です。