おはようございます。
弁理士の渡部です。
先週、平成28年弁理士試験の統計が発表されました。
今年も受験者数が一層減少したことに驚いています。
弁理士試験の受験者数は、10,494名だった平成20年をピークに毎年減少し続けています。
そして、今年はついに、記録が残っている平成10年以降では、最も少なかった平成10年が4,650名だったのに対し、今年は4,679名とほぼ同じ水準になっています。
受験者数の減少要因については、特許庁の弁理士制度小委員会で次のような指摘がされています。
1.特許出願件数が減っている一方で、弁理士数が増えているため、弁理士の志願者数が減るのは仕方がない。
2.かつての試験は、難しい試験だが一度資格を得れば十分な職が育まれるという意識があった。しかし競争原理を徹底した結果、必ずしもそうなっていない。
3.志願者数の大幅減は、日本弁理士会において、弁理士の魅力をアピールする努力が足りなかったことが一因である。
私は、新卒で知的財産の業界に飛び込んで20年以上経ちますが、知的財産を取り扱うのは、未だにとても難しいと感じています。
だから、他人(企業)の知的財産を取り扱うことを仕事にするには、高度な知識を身につけた人だけができるようにと、その登竜門として弁理士試験が設けられています。
弁理士試験を突破するには、合格者ですら4~5年かかるわけですから、合格だけを考えてひたすら勉強をし続けます。
そうした血のにじむ努力の上で試験を突破すると、いつの間にかあたかも合格が目的であったかのような思い込みに考えが支配されてしまいがちです。
しかし、その思いとは裏腹に、弁理士の資格はあくまで知的財産の仕事をしてもよいという免許にすぎません。
自動車で例えれば運転免許を手に入れたのと同じです。
知的財産を取り扱う仕事で重要なことは、特許などの手続ができることではなく、知的財産を保護、活用し事業の発展というゴールにクライアントを導くことだと考えます。
自動車で例えれば、運転できること自体が重要なのではなく、目的地まで連れて行くことが重要です。(もっといえば、専門家に依頼する以上、目的地に時間内に辿り着くこと、自社で行うよりは低コストで辿り着くことが求められます。)
知的財産を保護、活用する場合に、知的財産権をどのように手当てするかについては何通りもの選択肢があります。
どれを選べば正解なのかは、企業は容易には分かりません。
ましてやどのような方針で選択を行っていけば、事業の発展というゴールに辿り着くのかまで把握できている企業は、おそらく少数でしょう。
その大きな要因は2つあります。
1つは、知的財産が目に見えず、把握しにくいものであることです。
そしてもう一つは、知的財産を保護、活用した結果、自社や他社の事業にどのような影響が出るかが推測しにくいことです。
このボタンを押せばこのランプが光るというようにボタンとランプの関係がはっきりと把握できる場合は、光らせたいランプに対応するボタンだけを効率的に押していけばよいのです。
ところが、知的財産の場合は、保護や活用などの「施策」と、事業への影響という「効果」の対応関係がとても分かりにくいのです。
こうしたことを考えると、企業が弁理士に期待する役割の一つは、知的財産の水先案内人としての役割です。
つまり、「私は、このランプを光らせたいので、どのボタンを押せばいいか教えてほしい。」という質問に対し、「このボタンです。」と適確に答えられることです。
知的財産の知識がより少ない企業についていえば、「私は、事業の発展というゴールに辿り着くためにどのランプを光らせたらいいか分からないが、ゴールに辿り着きたいので、どのボタンを押せばいいか教えてほしい。」という質問に対し、「これとこれとこのボタンです。」と適確に答えられることです。
しかしこれに対し、合格を目的に位置づけてしまうと、車の運転はできるが、目的地に連れて行ってあげることができない状況に陥ってしまいます。
知的財産の水先案内人としての役割を期待されているのに、目的地に連れて行ってあげることができないのであれば、そこには大きなギャップが生まれます。
ボタンを押す指示を企業に行わせ、指示されたボタンだけを押すという仕事の仕方では、事業活動のなかで知的財産を活きたツールとして活用していく循環を生み出すことは難しいでしょう。
弁理士の側でここがきちんとできなければ、知的財産の業界がうまく機能しないことは明らかです。
業界が機能不全になれば、勉強に4~5年も時間をかけてまでこの業界に飛び込もうと思う人が少なくなるのはある意味必然な流れなのかもしれません。
弁理士を育成するプログラムを強化すればいいというような簡単なことではないと思います。
ですが、私にもできることはあります。知的財産の水先案内人としての役割を果たし、時にはその知識や経験を後輩に伝えながら、知的財産の業界がきちんと機能するように業界の一員としての役割を全うすることです。
弁理士試験の受験者数は、知的財産の業界がきちんと機能しているかどうかを推し量る一つのバロメータですから、受験者数が増えるように日々頑張っていきたいと思います。
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