おはようございます。
弁理士の渡部です。
企業のなかには、業績が傾くと、知的財産に関する費用を大幅に削減する企業があります。
これは、特許などの知的財産が利益に貢献する度合いを測定するのが難しく、削減対象の費用という位置づけになりがちだからです。
企業の利益は、次の式で表されます。
利益=収益(売上げのこと)-費用 …(1)
事業活動は、利益を増やすことが一つの目的ですから、上式(1)で利益が収益から費用を差し引いたものとして算出されているので、利益を増やすことを考えるときに、まず収益を増やすことを考えます。
収益を増やせなければ、事業の継続・成長は難しいからです。
しかし、もし現状では収益を増やすことが難しいと考えた場合、次に考えてしまうことが、費用を削減してみてはどうか?ということです。
上式(1)では、収益が一定でも費用が小さくなれば、利益が上がることになるからです。
上記のように、知的財産に関する費用を削減することも、この費用を削減することの一つの対策として位置づけられています。
しかし、やみくもに費用を削減することは、実は大変危険な事態を招くことになります。
それは、上式(1)の収益が費用との関係にあるからです。
収益というのは、製品開発や広告など市場に対する投資を行って初めて得られるものですから、次式のとおり費用の関数として表されます。
収益=f(費用) …(2)
上式(2)は、市場に対する適切な投資(費用)が大きければ収益が大きくなるという関係を表しています。
上式(1)だけをみれば、費用を下げることが利益に貢献すると思ってしまいがちですが、上式(1)(2)をみた場合、費用を下げると収益が下がってしまうので、安易に費用を下げることが危険であることが分かります。
市場に対する投資に当たらない費用や無駄な費用は、削減することを検討してもよいですが、市場に対する投資に当たる費用は、安易に削減してはならないのです。
特許などの知的財産権は、他社の事業活動を抑制することができる強力なツールであって、他社の事業活動を抑制し自社が競争優位に立ち、収益を上げることができるものです。
してみれば、知的財産に関する費用は、市場に対する投資といえます。
知的財産に関する費用を削減すれば、他社の事業活動を抑制できる自社の知的財産権が少なくなり、将来的には、市場における競争優位性が失われ、他社にシェアを奪われて収益が下がることにつながります。
一方、競合他社が知的財産に関する費用を削減しているのであれば、逆の見方として、競合する技術に関する特許出願が少なくなり、特許が取得しやすくなります。
苦しいときこそ逆にチャンスであり、好況に転じた後、苦況のときに着実に取得した知的財産権が大きく収益に貢献することにつながります。
知的財産に関する費用については、収益との間に以上のような関係があることから、長期的な視点で考えることが必要です。
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