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東京五輪エンブレムの問題で思う「パクリ」の議論

おはようございます。
弁理士の渡部です。


誤解がないように予め断っておきますが、この記事において、私は、東京五輪エンブレムのデザイナーの創作に関し批判する立場でも擁護する立場でもないということを明確にしておきます。


インターネットやメディアでは、東京五輪エンブレムが「パクリ」であるとの批判を多く目にします。


様々な意見を聞いているなかで思うのは、この「パクリ」の考え方については、もう少しきちんと考えてみる必要があるのではないかと思います。


「パクリ」というのは、マイナスの印象を与える言葉ですが、「参考」という言葉に置き換えてみれば、創作の重要な一要素であるという捉え方もできます。


私は、著作権や特許などの知的財産を取り扱う仕事をしていますので、仕事を通じて日々「創作」というものに関わっています。
また、私自身も、記事の執筆、プログラムの作成、システムの構築などの創作活動を行っていますので、「創作」に関しては一定の知識と理解があります。


私が「創作」において大切にしている考え方の一つに、「守破離」という考えがあります。


「守破離」とは、芸術等の分野において物事を学ぶ姿勢に関する教えであり、「守」「破」「離」という3つの言葉で表されています。


「守」は、型をひたすらまねする段階を表します。
「破」は、型を会得した後に、自分に合ったより良い型を作るために独自の工夫を加える段階を表します。
「離」は、型を離れて、自分の型を完成させる段階を表します。


この3つの段階を経て個性的な創作力を身につけていくことが理想であるという教えです。


日本では、このような教えの下で創作を繰り返してきた文化があり、その文化のなかで創作は、先代の資産(創作物)を参考にすることを是としています。


このように捉えると、先代の資産を参考にすることは、創作の重要な一要素であるということができます。


東京五輪エンブレムも「創作」に関わる問題であることからすれば、参考にすることが「是」という立場の意見と、参考にすることが「非」という立場の意見がそれぞれあって、参考の程度が議論されるべきではないかと思うのですが、私が東京五輪エンブレムの問題で危惧するのは、参考にすることが「非」という立場の意見しか聞こえてこないことです。


東京五輪エンブレムのデザイナーがベルギーリエージュ劇場のロゴを参考にしたかどうかは分かりませんが、仮に参考にしたとして、また仮に模倣と非難される結果であったとしても、その議論の過程においては、「創作においてモチーフとして参考にすることはある。」という意見が正面からあってほしいものです。


もし今のまま、「参考」=「非」というイメージが形成されてしまうと、自分が何かを創作する立場になったときに、混じりけのない真のオリジナルを求められることになり、創作活動がしにくくなることでしょう。


法律に絶対の価値を置くつもりはありませんが、例えば著作権法の考え方を参考にすれば、著作権法は、文化の発展に寄与することを目的としています。
ここでいう「文化の発展」は、世の中に多種多様な著作物が生み出されることを意味すると言われており、そのような社会となるように著作権法を運用することが目的であると定めています。


創作活動がしにくくなれば、創作物が生まれにくくなり、著作権法でいう「文化の発展」にはつながらない状況が作られてしまいます。


それは私たちの文化にとって大きな影を落とすことになってしまうのではないかという危惧を、東京五輪エンブレムの問題での議論に感じています。





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