おはようございます。
弁理士の渡部です。
「将来、AI(人工知能)によってなくなる職業に弁理士が入っているぞ。」という話を聞いたので、該当の記事を読んでみると、「弁理士などは機械にとって代わられる可能性が高い」とひと言、理由の説明もなく冷たく列挙されていました。
「自分の職業がなくなるかも」という身につまされる話を聞いたので、まじめにAIの可能性について考えてみました。
知的財産の仕事には、単純な作業も一部にあります。
一定の様式に従って決まった事項を記載するような作業です。
こういった単純な作業は、タイプライターがワープロに置き換わったように、AIにどんどんとって変わられる作業ではないかと思います。
しかし、単純な作業が簡単になったからといって、弁理士の職業がなくなるという結論には遙かな距離を感じます。
タイプライターがワープロに置き換わっても、ライターの仕事がなくならなかったのと同じだからです。
知的財産の仕事のなかで難しく時間や労力がかかるのが「判断」のところです。
例えば、商標登録の話でいえば、この商標が単なる品質表示にあたるのか、この商標が他社の登録商標と似ているのか、この商標が広く知られているのか、他社の商品と混同するかどうか、他社の商標権を侵害しているかどうかなどです。
弁理士の職業がなくなるというのは、この「判断」までもAIにとって変わられることを意味しているのでしょうか?
事業活動のなかには知的財産の創造・保護・活用のシーンがありますが、これらのシーンにおいて「判断」が不要になるのであれば、なくなるのは、弁理士どころの話ではありません。
特許庁も当然不要です。
例えば、特許庁の前にポストを置いておいて、そこに商標を書いた紙を入れると、AIが分析し、最適な商標について自動的に商標登録を付与してくれるようになります。
商標登録できない商標であれば、商標登録できる商標に変更し、それを商標登録してくれるわけです。(商標登録できる商標をAIが提案するシステムだと、それを採用するかどうかの「判断」が必要となるので、究極は勝手に変更するということに行き着くでしょう。)
知的財産の裁判所も不要になります。
同様に、裁判所の前にポストをおいておいて、そこに自分の登録商標と相手方の商標を書いた紙を入れると、AIが分析し、商標権の侵害かどうかをジャッジしてくれるようになるからです。
本当にそこまで現実的な将来として想定されているのだろうか?と疑問に思いました。
上記記事を見渡すと、「弁護士などは代替リスクが低い」とされており、その明確な理由は示されていませんが、弁護士は、ある行為や事実が法律の規定に該当するかどうかを判断することに高度な専門性を有する職業ですから、その根幹部分がAIにとって変わられにくいと判断されている、と考えられます。
商標登録を受けられるかどうかの判断や商標権を侵害するかどうかの判断は、同じような判断を必要とするものですから、弁護士の判断をAIに置き換えるのが難しいのだとすれば、同様に弁理士の判断も容易でないと考えることができます。
AIは万能ではありません。
計算が正確であり、大量のデータを処理できる点で優れているツールではありますが、人間と同じように、AIにできることもあればできないこともあります。
AIにできる部分はAIに置き換わるでしょう。
しかし、人はうまい生き物で、AIと戦うことを選択するのではなく、そこはAIに任せ、人にしかできない作業に特化して進化していく、環境適応能力に長けた生き物だと思います。
この点も、創造性と社会的知性と並んでAIとは異なる人の優れた能力であるということがいえます。
それを考えると、現在行っている弁理士の仕事の多くがAIに置き換わるかもしれませんが、弁理士も、そうしたAIのインフラの上に、人にしかできない知的財産の仕事を行っていくように業態が移り変わっていくでしょう。
AIによって弁理士の業態が変わることはあっても、弁理士がAIに置き換わるというほど神格化される技術ではないと考えます。もちろん、他の多くの職業についても同様です。
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