特許を侵害されるパターンの1つに「クレーム」が弱い場合があります。
クレームとは特許出願の際に記載する「特許請求の範囲」のことで、他社の特許侵害を防ぐ武器となります。
では、どうすれば広く強い特許権を持つクレームを作ることができるのか?
ドラえもん社が「どこでもドア」の特許権を守るクレームの作り方で考えてみましょう。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
目次
特許を守る「クレーム」って文句つけること?
ライバル企業が自社の特許を侵害してくるのは、よくある話です。
しかし、それに対抗する措置を取ることは非常に難しいため、多くの企業が泣き寝入りしてしまいます。
多くの時間とお金を使って手にした特許を守るためには、特許の「クレーム」を自社の知的財産の範囲であると主張できるよう、作り込む必要があるのです。
さて、ここで「クレーム?」と思われた方もいることでしょう。
「クレーム」とは特許出願の際に記載する「特許請求の範囲」のことで、日本語で一般的に認識される「苦情」とは意味がまったく異なる業界用語です。
では、ライバル企業から自社の特許を守るために、私たちはどのようなクレームを作れば良いのでしょうか?
難しい話題と感じる方もいらっしゃるでしょうから、本記事では「もしもドラえもんの秘密道具が特許侵害されそうになったら?」というテーマで、クレームの理想的な作り方について説明したいと思います。
「どこでもドア」の一般的なクレームの作り方
例えば、株式会社ドラえもん(代表取締役社長:ドラえもん)が「どこでもドア」の特許出願をしていたとします。
この場合、「どこでもドア」について特許請求の範囲であるクレームを書くと、一般的には次のような感じになります。(部品の詳細は省略)
(1)ドア枠
(2)ドア
(3)ドアノブ
(4)現在地点から離れた空間を通行可能に接続する空間接続手段を備えることを特徴とするドア構造体
まず現実の話をしますと、このクレームで「どこでもドア」の特許を今の時代に提出した場合は、残念ながら(4)の異空間移動技術が実現不可能なので、特許を受けることができません。
現時点では未完成の発明だからという理由です。
しかし、将来技術が進歩して異空間移動を実現する技術が発明されたら、そのときは特許を受けることができます。
一般的なクレームは「どこでもドア」を守れない
仮に20☓☓年に、株式会社ドラえもんが、「どこでもドア」について先述のクレームで、特許を成立させたとします。
他社の製品が特許権の侵害かどうかを判断する場合は、他社製品が、
(1)ドア枠
(2)ドア
(3)ドアノブ
(4)異空間移動を実現する技術
のすべてを備えているかどうかを確認します。
(1)~(4)のすべてを備えている場合、他社製品は「どこでもドア」の特許権を侵害することになります。
これに対し、(1)~(4)の1つでも備えていない場合は、「どこでもドア」の特許権を侵害することにはなりません。
例えば、鍋のフタを開けたら別空間に移動できる「どこでも鍋」は、
(1)ドア枠
(2)ドア
(3)ドアノブ
を備えていないので、「どこでもドア」の特許権を侵害することにはなりません。
しかし、そうなってしまうと、「どこでも鍋」だけでなく、引き出しを開けたら別空間に移動できる「どこでも机」や、フタを開けたら別空間に移動できる「どこでもトイレ」など、類似品が溢れてしまい困ってしまいます。
クレームに書く部品の数は少ない方が広く強い特許権を作る
このような場合は、どのように対応したら良いかというと、
(1)ドア枠
(2)ドア
(3)ドアノブ
の3つは、そもそも既に知られた部品ですから、特許のクレームに書いても特徴になりません。
そこで、(1)~(3)を外し、次のように書くことを考えてみます。
(4)現在地点から離れた空間を接続する空間接続手段を備えることを特徴とする構造体。
この内容で特許を取得できれば、(4)だけを備えていれば特許権の侵害となるので、株式会社ドラえもんは「どこでも鍋」も「どこでも机」も「どこでもトイレ」についても、しっかりと特許を押さえることができます。
つまり、特許のクレームに書く部品は、できるだけ少ない方が広く強い特許権となることが分かります。