自社が優れた商品・サービスを持っている場合、あれもこれも商標登録を行いたくなるものです。
しかしながら、権利範囲とコストの間にはトレードオフの関係があり、すべての範囲で商標登録しようとすれば、コストが高くつきすぎます。
そこで本記事は、商標登録のコストを抑えるための、上手な権利範囲の決め方をご紹介します。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
目次
あれもこれも商標登録するとコストがかかる
商標登録を検討する場合、どの商品・サービスについて商標登録を行うか?という検討が重要になります。
事業で使用する商品名・サービス名を守るのが商標登録ですから、事業でどの商品・サービスについて商標を使用しているかを特定することは、商標登録を行う上で必須であり、ここは当然の検討事項になります。
しかし時に、権利範囲とコストがトレードオフの関係になることも少なくありません。
商標登録では、申請する区分の数が増えるとコストが増えます。
このため、事業で取り扱っている商品・サービスが多く、権利範囲をしっかりと確保しようとすると、コストもそれなりにかかることになります。
権利範囲とコストがトレードオフの関係になってしまう場合、すなわち、予算の関係で権利範囲を取捨選択しなければならない状況である場合は、どの商品・サービスを商標登録の範囲から除外するかを検討しなければなりません。
これには2つのパターンがありますので、ご紹介しようと思います。
商品・サービスが1つの区分に属している場合
第1のパターンは、現在事業で取り扱っている商品・サービスが1つの区分に属し、関連する商品・サービスが他の区分に属している場合です。
例えば、現在はソフトウェアの商標として使用しているが、将来はクラウドサービスの商標として使用する可能性も考えられるので、クラウドサービスについても商標登録を取得しておいた方が望ましい場合です。
これら商品・サービスをすべて含む商標登録を行うと、区分の数が「2」になります。
このとき、1区分の分しか予算が割けない場合、どうするかが問題となります。
しかし、これはさほど悩む問題ではなく、当然、現在使用している商品・サービスについて商標登録を取得することを優先すればよいのです。
関連する商品・サービスについては、リスクはあるものの、時期を空けて予算が確保できる段階になったら取得するというやり方をとります。
商品・サービスが2つの区分に属している場合
ところが、次のパターンはそう簡単ではありません。
第2のパターンは、現在事業で取り扱っている商品・サービスが2つの区分に属している場合です。
例えば、現在、ホテルとスパ施設を経営し、それらの商標として使用している場合です。
これら商品・サービスをすべて含む商標登録を行うと、区分の数が「2」になります。
このとき、1区分の分しか予算が割けない場合、どうするか。
商標を使用できなくなる可能性と、商標を使用できなくなった場合の損失を分析し、どちらの区分を優先するかを決めていく必要があります。
商標を使用できなくなる可能性については、例えば、その商品・サービスの区分で商標登録がどれぐらい取得されているかという点を検討します。
商標登録の件数が多ければ、商標を使用できなくなる可能性が高まるからです。
また、商標を使用できなくなった場合の損失については、売上げや利益の規模、顧客への認知度、販促物を刷新する場合の費用などを検討します。
優先順位と時期を空けることでコストを抑える
このような検討を経て、優先順位を決め、時期を空けて2つの区分について商標登録を取得していけば、商標登録のコストは安く抑えることが可能になります。
また、このような検討を経ることでリスクが明確になるので、商標登録の費用対効果を正確に評価でき、1区分の分しか予算が割けないという前提を変更する選択肢も最終的に検討することが可能になります。