企業のブランディングにとって切り札となりつつあるサウンドロゴ(音商標)の商標登録が、ここ数年で顕著に増加しています。
2022年には特許庁におけるサウンドロゴの登録申請が約1000件に達し、これは過去最多の件数となりました。
それは何故か?サウンドロゴは、単なるロゴやキャッチフレーズとは異なり、音で企業や製品のイメージを象徴します。
この新しい波が、どのような要因で押し寄せ、またどのようにして企業がこの波を活用しているのか、具体的な事例を交えながら解説していきましょう。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
サウンドロゴ登録増加の背景
サウンドロゴの商標登録が増加した背景には、スマートスピーカーの普及、音声コンテンツの増加、メタバースの台頭などがあります。
スマートスピーカーの普及
私たちの生活において、スマートスピーカーはもはや欠かせない存在になりつつあります。
Amazon EchoやGoogle Homeのようなデバイスによって、音声認識技術は目覚ましい進化を遂げ、企業は音声という媒体を使って効果的にブランドをアピールできるようになりました。
音声コンテンツの増加
ポッドキャストやオーディオブックなど、音声を利用したコンテンツの増加に伴い、人々はより多くの音声情報に触れる機会を持つようになりました。
この環境下では、サウンドロゴを用いることで、リスナーに自社のブランドを自然かつ効果的に思い起こさせることが可能です。
メタバースの台頭
バーチャルリアリティや拡張現実が生み出すメタバースの空間では、音声コミュニケーションの役割がますます重要となります。
サウンドロゴはこのようなデジタル空間において、ブランドの存在感を際立たせる役割を担うことが期待されています。
サウンドロゴの活用事例
サウンドロゴの活用しブランディングに成功した事例をみていきましょう。
味の素社のサウンドロゴ
味の素社は「あじのもと」の音声について商標登録を取得しました。
商標登録は、他社の使用を防止することができるので、味の素社だけが「あじのもと」の音声を使用して商品やサービスを提供することができます。
ブランディングにおいて、「あじのもと」の音声を味の素社だけが使えるようにすることは非常に重要なことです。
これにより、CMで流れる「あじのもと」の音声は、味の素社のブランドを親しみやすく、暖かみのあるものとして消費者に認識させることに成功しました。
ファミリーマート社のサウンドロゴ
ファミリーマート社は、「あなたとコンビニファミリーマート」でお馴染みのファミマサウンドロゴについて商標登録を取得しています。
商標登録により、ファミリーマート社だけがファミマサウンドロゴを使用して商品やサービスを提供できるという、ブランディングに必要な環境が作られます。
これにより、店舗やCMで流れるファミマサウンドロゴは、消費者の日々の暮らしを便利で豊かにするイメージとしてファミリーマート社のブランドを消費者に認識させることに成功しました。
日清食品社のサウンドロゴ
日清食品社は「すぐおいしい すごくおいしい」でお馴染みのチキンラーメンサウンドロゴについて商標登録を取得しています。
商標登録により、日清食品社だけがチキンラーメンサウンドロゴを使用して商品を提供できるという、ブランディングに必要な環境が作られます。
これにより、CMで流れるチキンラーメンサウンドロゴは、チキンラーメンのブランドを親しみやすく、懐かしさのあるものとして消費者に認識させることに成功しました。
顧客体験の向上
Amazonは、スマートスピーカー「Echo」に搭載されている音声アシスタント「Alexa」の音声をブランディングに活用しています。
これにより、音声認識技術を活用してユーザはスムーズに商品を注文したり、情報を得ることができるようになりました。
商品・サービスの差別化
マクドナルドは、「I'm Lovin' It」というタグラインの音声をブランディングに活用しています。
マクドナルドは、このタグラインの音声を世界中で使用することでブランドイメージを統一し、認知度を高めています。
メタバース空間でのブランディング
ナイキは、スニーカーが地面に触れる際の着地音をブランディングに活用しています。
ナイキは、これをメタバース内で使用することで、ナイキのプロダクトに独自の魅力を付加し、消費者の記憶に残りやすくしています。
サウンドロゴの商標登録のポイント
サウンドロゴも文字や図形の商標と同様、一定の登録要件を満たす必要があります。
商標がありふれたものでないこと、先行登録の商標と類似しないことなどです。
サウンドロゴの商標登録に特徴的なポイントは次のとおりです。
識別力のある音
音が「商標」として機能するためには、消費者がその音を聞いて、特定の企業、商品又はサービスを想起できることが必要です。
例えば、商品が通常発する音やサービスの提供にあたり通常発する音、自然音、単音や極めて簡単な音などは、識別力がないととされています。
五線譜や文字の記載
商標登録を受けようとする音を特定するために、五線譜や文字(又はその両方)を用いて記載する必要があります。
音声ファイルの提出
商標登録を受けようとする音を特定するために、音声ファイルを提出する必要があります。
ファイル形式やデータ容量が定められていますので事前に確認しましょう。
ブランディングの観点
識別力は商標登録を受けるために最低限必要な条件ですが、ブランディングを考えると、それだけでは十分ではありません。
ブランディングの観点からは、消費者が覚えやすい音であることが重要です。
消費者にその音を覚えてもらい、その音を聞いたときに自社の商品やサービスを想起してもらうためです。
覚えやすい要素としては、短い音、聞きやすい音、他社が使っていないユニークな音などです。
まとめ
サウンドロゴは、今や企業がブランドイメージを築く上で欠かせないツールとなりました。
音声を通して消費者の記憶に残るブランドを構築し、顧客体験を向上させることが期待されます。
今後のビジネスシーンでは、サウンドロゴの役割はさらに重要性を増していくでしょう。
中小企業の皆さんも、この新しい商標の波に乗り遅れないように、今からその知識を深め、自社のブランディングに活かしていただければと思います。