近年、レトロPCブームが再燃している中、NEC社がPC-8800シリーズの3機種について商標登録の出願をしたことが話題になっています(ニュース)。
しかし、単純な型番の商標登録は認められないことが多いのが現実です。
本記事では、商標登録が認められる基準やNEC社が過去に経験した商標登録の苦労について解説します。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
商標登録の難しさとは?
今回、NEC社が商標登録を出願したのは、「PC-8801mkIISR」「PC-8801MA」「PC-8801MC」の3つです。
商標の審査では、文字や数字が組み合わされただけの商標は登録が認められないことになっています。
このような商標は消費者が商品を識別できず、保護する必要がないからです。
例えば、パソコンの型番などもこれに該当します。
過去の「PC-98」の出願を振り返る
過去にNEC社が商標「PC-98」の商標登録を出願したとき、商標「PC-98」は消費者が単なる型番として捉える可能性が高いとして、特許庁の審査で一度は登録が認められませんでした。
しかし、NEC社は、審査の結果に不服を申し立て上級審である審判で争いました。
その結果、NEC社が提出した証拠により商標「PC-98」が広く認知されていることが認められ、最終的には審判で登録が認められました。
以下、審決の要約です。
商標「PC-98」は、統一されたデザインをもって一体的に表されているものである。また、NEC社が提出した証拠によれば、商標「PC-98」は、「ピーシーキュウハチ」と称され、よく知られている。そうとすれば、商標「PC-98」を商品「コンピュータ」に使用しても、消費者は、パーソナルコンピュータの略語と数字とを結合したものとして理解するというよりも、むしろ、全体として一種の造語よりなる固有の商標と認識することができる。
引用:不服平11-010245
文字や数字が組み合わされた商標「PC-98」でも、広く認識されているなどの事情があればそれが考慮されて登録が認められることもあります。
NEC社のPC-8800シリーズの出願はどうなる?
では、NEC社は、「PC-8801mkIISR」等の出願にあたって以前のような争いをしてまで商標登録を取得しようとしているのでしょうか。
先ほどご紹介した商品型番のルールは、文字や数字が組み合わされただけの商標について適用されるものです。
文字自体は商品の型番のようなものであっても、ロゴなど他に特徴がある要素が組み合わされていれば、このルールは適用されません。
今回の出願をみてみましょう。
「PC-8801MA」については、「MA」の文字がロゴ化されているので商標に特徴が認められます。
「PC-98」のような問題はなさそうです。
「PC-8801MC」についても、「MC」の文字がロゴ化されているので商標に特徴が認められます。
「PC-98」のような問題はなさそうです。
これに対し、「PC-8801mkIISR」については、「mk」「SR」の文字が他の文字よりも小さくなっていますが、文字の大小だけだと、「PC-8801MA」「PC-8801MC」のような特徴は認められにくいと考えます。
ただ、「PC-8801」ならともかく、「mkIISR」という文字が追加されているので、これらの文字の組み合わせにより特徴が認められるかもしれません。
まとめ
PC-8800シリーズの商標については、単純な型番に該当するかどうかが審査で検討されます。
単純な型番でも、デザイン性や認知度が高ければ商標として認められる可能性がありますが、それが認められるかどうかは審査官の判断に委ねられます。
レトロPCファンにとっては、これからの動向が気になるところです。
NEC社の今後の戦略とともに、商標登録の結果にも注目が集まりそうです。
PC-8800シリーズの商標登録について解説したブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
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