こんにちは、弁理士の渡部です。
zoom訴訟では話題が盛りだくさんで、とても興味深い事件なので、シリーズでお伝えします。
本日は、「zoom社の逆転商標登録はあるのか。」というテーマでお話しします。
目次
zoom社が対抗措置として放った商標出願
オンライン会議のサービスを提供するお馴染みのzoom社が商標権侵害で訴えられました。
訴えた相手は、音楽機器を販売している株式会社ズームという国内の企業(音楽機器ズーム社)です。
(※正確に言うと、zoom社の日本代理店であるNECネッツエスアイ社を訴えたのですが、登場人物が増えると話が分かりづらくなるので、本記事ではzoom社を訴えたとして話をします。)
zoom訴訟の勃発です。
これに対し、zoom社が対抗措置として放った一矢が商標出願(商願2020-061572)でした。
zoom社は、自社が商標登録を取得すれば音楽機器ズーム社の商標権を侵害することはないと考えたからです。
詳しい経緯などは記事「zoom、大ヒットの裏の商標権侵害!?」をご覧ください。
特許庁の審査で立ちはだかる3枚の壁
ところが、zoom社の商標出願に対しては、以下の3件の商標に似ているから商標登録は取得できないとの指摘を特許庁から受けてしまいます。
(1)音楽機器ズーム社の商標「zoom」(登録第4940899号)
(2)トンボ鉛筆社の商標「zoom」(登録第4363622号)
(3)RIH社の商標「zoom」(登録第6255174号)
1枚目の壁に対するzoom社の攻略
音楽機器ズーム社の商標(1)は、次のように純粋な文字ではなく、デザイン化した文字として構成されています。
先頭の文字は数字の「2」、次の文字は「∞」(無限大)とも見えます。
このようにパッとみたときに「zoom」とは読めないことから、特許庁の審査では、音楽機器ズーム社の商標(1)は、商標(2)(3)とは似ていないと判断された可能性があります。
ですから、zoom社は、音楽機器ズーム社の商標(1)に対しては、似ていないと反論するのでしょう。
この反論は商標(2)(3)よりも難しくなさそうです。
2枚目の壁に対するzoom社の攻略
トンボ鉛筆社の商標(2)は、zoom社の商標「zoom」とよく似ています。
これはさすがに似ていないと反論するのは難しいです。
そこで、zoom社はどうしたのか。
商標(2)の商標登録を取り消そうとして、トンボ鉛筆社に対し不使用取消審判を請求しました。
もしトンボ鉛筆社がアプリケーションの名称として商標(2)を長い期間使っていない場合は商標登録を取り消すことができ、商標登録を取り消せれば2枚目の壁はクリアできるからです。
zoom社は、独自に調査してトンボ鉛筆社が使っていないことを確信して請求したのでしょう。
ただし、不使用取消審判はトンボ鉛筆社に対する争いをふっかけることなので、トンボ鉛筆社の協力を得て商標登録を目指すという選択肢がとれなくなるので諸刃の剣です。
3枚目の壁に対する…?
さて、商標(3)に対してはどうかというと、商標(2)のように不使用取消審判を請求していません。
理由は2つ考えられます。
1つ目は、調べたらRIH社がアプリケーションの名称として商標(3)を使用していたことが判明したので、不使用取消審判を請求しても認められないと判断したことです。
2つ目は、RIH社の協力を得て商標登録を目指すため交渉中であることです。
ただし、いずれも難しいと考えられます。
まとめ
zoom社の逆転商標登録はあるのかということですが、現状では壁が厚く難しいでしょう。
この状況で逆転があったら、それはそれでエキサイティングです。
zoom社が何をしたのかを分析し、後日お伝えしたいと思います。
以下、本記事のまとめです。
・zoom社の商標出願には3枚の壁が立ちはだかっており、これを全部クリアしないと商標登録は取得できない。
・壁をクリアする方法は、1つだけでなく、似ていないと反論したり商標登録を取り消したりといろいろな方法がある。
・商標登録を取り消す不使用取消審判は、相手の協力を得て商標登録を目指すという選択が難しくなるので慎重な判断が必要である。