ファッションブランドのタグを付けたアップサイクル商品を販売した女性が、商標権侵害で逮捕されました。
一見、自分の所有物を使って作ったものを販売する何が問題なのか、疑問に感じるかもしれません。
しかし、ブランドタグには「出所表示」と「品質保証」という重要な役割があり、勝手に使用することは許されないのです。
本記事では、アップサイクル商品販売で逮捕された事件を題材に、ブランドタグの使用に関する落とし穴について解説します。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
アップサイクル商品を販売し逮捕
ファッションブランドの本物のブランドタグを付けたバッグを作り、販売していた女性が商標権侵害で逮捕されたという事件をご紹介します。
本物のブランドタグを付けたバッグを販売して逮捕、という表現が分かりにくいと思いますが、百聞は一見に如かず、こういう商品です。
ブランド物のジーンズの中古品でバッグを作って売った、ということですね。
何というか、よくできてます。面白いですし。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/bsn/132415
商品として寿命が終わったジーンズを、作り直して新しい創作的価値を生み出したものです。
商品をアップグレードしてリサイクルすることから「アップサイクル」と呼ばれることがあります。
商標権侵害で逮捕されてしまったのですが、弁理士という仕事をしていると、この方の創作的工夫は、正直評価したいと思ってしまいます。
ただ、商標登録の分かりにくい落とし穴に落ちてしまったというか、そういうやってしまった感がありました。
転売も加工も自由だがブランドタグの使用には制限あり
さて、改めて申し上げますが、ブランド品の転売は合法です。
Levi'sのジーンズを購入して転売する、ルイヴィトンのバッグを購入して転売する、まったく合法です。
そこで利益を出しても何ら法律には触れません。
また、購入したジーンズやバッグは、その人の所有物になるので、バラバラにするのも別の品物に作り替えるのも自由です。
そうなると、自分の物を使って、自分が作った物を売って、何が悪いのさ、という発想になってもおかしくありません。
その発想はあながち間違いとはいえません。Levi'sのジーンズの「生地」を使ってバッグを作って売っても、それは所有権の範囲です。
しかし、今回問題になったのは、元の商品に付いていたブランドタグをそのまま使ってしまった、という点にありました。
商品を購入すると、その商品のすべてを自由にしてよいと、つい勘違いしてしまいがちです。
しかし、商品を買って自由にできるのは、その商品そのものであって、Levi'sとかルイヴィトンとか、そういうブランドを勝手に使ってもよい、というわけじゃありません。
この事件の商品の問題は、すべての商品に元の商品のブランドタグが目立つように使われていることでした。
これは、Levi'sが有するよいイメージ、すなわちブランドをそのまま使っている、ということです。
ブランドタグをそのまま使うとブランドを損なう
企業が何のために商品にブランドタグを付けるのかというと、大きく2つの理由があります。
1つ目は、ブランドタグを見た消費者が、どの企業の商品か一目で分かるという機能を持たせるためです。これを「出所表示」といいます。
2つ目は、「Levi'sなら品質に間違いないだろう」と消費者に安心させるという機能を持たせるためです。これを「品質保証」といいます。
この方が、Levi'sの商標を目立つ場所に使ってバッグを作って販売すると、それを見た人はLevi'sのバッグだと思って買ってしまうかもしれません。
また、手作りですから、すくに壊れてしまうこともあるかもしれません。
その場合どうでしょう。この方がした行為は、ブランドタグの出所表示も品質保証も、いずれも裏切ることになります。
結果として、Levi'sが積み重ねてきたブランドが損なわれてしまうかもしれないわけです。
まとめ
これは企業としては決して認められないことですし、このような行為を認めれば商標登録の存在意義も問われてしまいます。
このような理由により、他社のブランドタグが付いたままの状態でアップサイクル商品を販売することは商標権侵害となるのです。
では、アップサイクル商品を販売するためにはどうしたらよいかですが、元の商品に付いているブランドタグを自社オリジナルのブランドタグに付け替え、販売するという方法があります。
例えば「リネームクロス(Rename X)」というブランド名でアップサイクル商品を販売している企業が知られています。
以下、本記事のまとめです。
・商品の転売も加工も自由だがブランドタグの使用には制限がある
・元の商品のブランドタグをそのまま使うとブランドを損なうおそれがある
・元の商品のブランドタグをオリジナルに付け替えれば他社の商標権を侵害せずにアップサイクル商品を販売できる
アップサイクルQ&A
Q1.アップサイクルで他社の商標権を侵害する可能性はありますか?
A1. はい、可能性があります。
アップサイクル商品に他社の商標が付いたまま販売したり、商標権者に許諾なく商標を使用したりすると、商標権侵害となる可能性があります。
Q2.商標権侵害とならないためにはどうすればよいですか?
A2. 以下のような対策が考えられます。
・権利者に許諾を得る:最も安全な方法は、アップサイクル商品の販売前に権利者に許諾を得ることです。
・商標を完全に除去:商品から他社の商標を完全に除去することで、商標権侵害のリスクを減らすことができます。
・独自の商標を採用:独自の商標を採用することで、他社の商標権を侵害することなく、アップサイクル商品を販売することができます。
Q3.アップサイクルで他社の意匠権を侵害する可能性はありますか?
A3. はい、可能性があります。
アップサイクル商品のデザインが他社の意匠権に抵触する場合、権利侵害となる可能性があります。
Q4.デザイン特許権や意匠権侵害とならないためにはどうすればよいですか?
A4. 以下のような対策が考えられます。
・権利者に許諾を得る:最も安全な方法は、アップサイクル商品の販売前に権利者に許諾を得ることです。
・独自のデザインを採用:独自のデザインを作成することで、他社の意匠権を侵害することなく、アップサイクル商品を販売することができます。
Q5.アップサイクル商品の販売前にどのような調査を行うべきですか?
A5. 以下のような調査を行うことをお勧めします。
・商標権・意匠権の調査:J-PlatPatなどで、アップサイクル商品に関連する他社の知的財産権の存否を確認します。
・著作権の調査:著作権法上、二次創作として利用できるか確認します。
Q6.万が一、知的財産権侵害で訴えられた場合はどうすればよいですか?
A6. 弁理士に相談することをお勧めします。
知的財産権侵害は専門的な知識が必要となるため、早めに弁理士に相談することで、適切な対応を取ることができます。
Q7.アップサイクル製品自体が新たな知的財産権を生むことはありますか?
A7. はい、アップサイクル商品は新たなデザインや技術を生み出す可能性があります。
その場合、知的財産権を取得することで、自社の商品を保護することができます。
Q8.アップサイクルビジネスを成功させるためのポイントは?
A8. 以下のようなポイントがあります。
・知的財産権の調査:商標登録や意匠登録など、他社の知的財産権を調査することで、他社の知的財産権を侵害せずに安全に販売することができます。
・独自性のある商品開発:単なる素材の再利用ではなく、デザイン性や機能性を高めた商品開発が必要です。
・ブランド戦略:ストーリー性やコンセプトを明確にすることで、消費者に商品の価値を訴求することができます。
・販路開拓:オンラインショップや実店舗など、様々な販路を開拓することで、販売機会を増やすことができます。
・知的財産権の取得:商標登録や意匠登録など、知的財産権を取得することで、自社の商品を守ることができます。