こんにちは、弁理士の渡部です。
本日は、辰年にちなんでドラゴンキーホルダー事件をご紹介します。
観光地でよく見かけるキーホルダー
観光地といえば、よくこんなキーホルダー売ってますよね。
今回は、知財の業界で、竜にちなんだ事件として有名な「ドラゴンキーホルダー事件」をご紹介します。
この事件は、A社が、<このような>ドラゴンのキーホルダーを販売していたところ、B社が<こういった>ドラゴンのキーホルダーの販売を開始したので、A社がB社を訴えた事件です。
確かに、A社、B社のキーホルダーは似ているように思え、B社の販売を止めさせたいA社の心情も分かります。
では、A社は、B社の販売を止めさせることができたのでしょうか…
デザインを保護する4つのアップローチ
結論の前に、デザインを保護する法律について簡単に説明します。
デザインの保護に関しては、
1.著作権法
2.立体商標の商標登録
3.意匠登録
4.不正競争防止法
4つのアプローチがあります。
まず、「著作権法」です。
著作権法の保護対象は美術品等の一品制作物であって、量産できる商品のデザインは著作権の保護対象外です。
したがって、A社のキーホルダーは著作権法では保護されません。
次に、「立体商標の商標登録」です。
立体商標については特許庁の審査により登録を受けることが必要ですが、A社は登録を受けていないため保護を受けられません。
もっとも、立体商標は条件がとても厳しくほとんど登録を受けることができないので、仮にA社が出願していても登録は認められなかっただろうと考えられます。
次に、「意匠登録」です。
意匠登録についても特許庁の審査により登録を受けることが必要ですが、A社は登録を受けていないため保護を受けられません。
不正競争防止法で攻めてみたが
そこで、A社は、不正競争防止法(以下「不競法」)に基づく差止請求及び損害賠償請求を行いました。
不競法2条1項3号には、「他人の商品のデザインを『模倣』した商品を譲渡等する行為」は不正競争行為にあたる、と規定されており、この規定に該当すれば差止及び損害賠償が認められることになります。
東京地裁は、B社の商品はA社の商品の「模倣」であるとして、A社の請求を認めました。
しかし、これに対しB社は東京高裁に控訴。
東京高裁は、B社の商品はA社の「模倣」にあたらないとして、第一審の東京地裁の判断を覆す判決を下しました。
東京高裁は、その判決のなかで、「模倣」とは、
①客観的に「実質的に同一といえる程に酷似していること」
②主観的に「他人の商品に依拠して(知って)作ったこと」
の2点が必要であることを明らかにしました。
つまり、単に似てるだけでは「模倣」とは認められず、他人の商品を見て知って作られた同一形状のもの、いわゆる「デッドコピー」を排除するのが、不競法の範囲であるとしたのです。
これだけ見ると、かなり厳しい判断のように感じます。
一般に「模倣品」は、細部に変更を加えたようなものも多く、そのような商品を排除できないとすれば模倣品による被害者は救われません。
デザインの保護は意匠登録が強い
そこで出てくるのが、先ほどの候補に挙げた意匠登録です。
意匠登録は、同一のみならず類似の範囲にまで効力が及びます。
効力の範囲が同一から類似へと大きく広がります。
また、模倣企業が当社の商品を知っていようがいまいが関係なく、デザインが類似しているかどうかだけで侵害が判断されます。
不競法が、模倣企業が当社の商品を見て知っていること、デザインもほぼ同じであることという縛りがあることと比べると、大きな違いです。
保護が格段に強いといえます。
まとめ
この事件においてもA社は事前に意匠登録を受けておけば、B社の模倣を排除できた可能性が高いです。
新しい商品のデザインを開発された際は、意匠登録の取得をご検討ください。
以下、本記事のまとめです。
・デザインの保護には4つのアプローチがある。
・不正競争防止法は縛りが大きく空振りしやすい。
・デザインの保護は意匠登録が強い。