おはようございます。
弁理士の渡部です。
商標の相談では、よく話題になることがあります。
「2つの商標A、Bを使う予定ですが、商標権は、同一の商標だけではなく類似する商標についても権利が及ぶので、商標Aと商標Bが類似している場合は、商標Aだけ商標登録を受ければ大丈夫ですよね?」という質問が寄せられます。
商標A、Bでは分かりにくいので、具体的な例を挙げて説明します。
例えば、商品「最中」について使う商標「いちょう最中」(=商標A)と、商品「最中」について使う商標「いちょう」(=商標B)は、類似しているケースに該当すると考えられますが、この場合、商標「いちょう最中」も「いちょう」も使うのに、商標「いちょう」だけ商標登録を受ければ大丈夫なのでしょうか。
確かに、商標「いちょう」について商標登録を受ければ、第三者は、商標「いちょう」はもちろん、これに類似する商標「いちょう最中」も使うことができなくなります。
第三者が使えないのであれば、実質的に問題ないように見えますが、これはまったく大丈夫とはいえないのです。
商標権は、類似する商標「いちょう最中」を第三者が使うことを禁止できますが、自分が、類似する商標「いちょう最中」を使うことを保証するものではないのです。
あくまで第三者の使用を「禁止」するだけの効果しか認められないのです。
「第三者の使用を禁止」=「自分が使用できる」という図式ができやすい点に落とし穴があります。
問題は、第三者が、商標「いちょう最中」に類似する商標について登録を受けた場合です。
商標「いちょう最中」は、AさんとBさんの商標と相互に類似する商標になった場合、商標「いちょう最中」は、AさんもBさんも使えないということです。
そのようなことが起こるはずがないではないか?と思うかもしれません。
しかし、現実には十分に起こり得るのです。
去年までは、商品「最中」について使う商標「いちょう」と、商品「ピザ」について使う商標「いちょう」は、商品同士が似ていないと判断されていたので、AさんBさんがそれぞれ商標登録を受けることができました。
しかし、今年になり、その運用が改正され、商品「最中」と商品「ピザ」が似ていると判断することになりました。
そうすると、どうなるでしょう。
2012年1月1日を跨いだことで、商標「いちょう最中」は、Aさんが持っている商標「いちょう」と、Bさんが持っている商標「いちょう」の両方に類似することになり、とりわけAさんは、商品「最中」について商標「いちょう最中」を使うことができなくなりました。
このような改正は、数年に一度行われます。
知らないうちに、使えなくなってしまったということも往々にしてあります。
現実に使う商標は、類似するかどうかにかかわらず、それぞれ商標登録を受けることが必要となります。