ある有名人の名前を商標にしようとしたら、果たしてそれは可能なのでしょうか?
この疑問を抱く方は少なくありません。
特に、漫画家 鳥山明先生のような超一流のクリエイターの場合、その名前には大きな価値があり、商標としても魅力的に感じるかもしれませんが、そう簡単にはいかないのが現実です。
本記事では、商標登録における本名とペンネームの取り扱いについて、鳥山明先生の場合を例に挙げ詳しくみていきます。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
本名かペンネームかで取り扱いが違う
他人の名前を含む商標は登録が認められません。
これは商標法第4条1項8号に規定されています。
しかし、この規定は、亡くなった有名人の名前については対象とならないので、残念ながら、鳥山明先生の作者名についての出願は、この規定で排除できません。
この規定は、他人の名前又は他人のペンネームについて登録を認めないものですが、本名なのかペンネームなのかで取り扱いが変わります。
以下では、もし鳥山明先生がご存命である場合を仮定して、本名とペンネームの違いについてみていきます。
他人の名前を含む商標の取り扱いについて
鳥山明先生の名前は本名です。
Wikipediaによれば、次のことが書かれています。
デビュー前は「どうせ売れる訳がない」と思っており、ペンネームを使う発想もなく本名で通した。「鳥山明」という名前は愛知県には数軒しか存在せず、デビュー直後はイタズラ電話がよくかかって来たため、冗談で“水田二期作(みずたにきさく)”というペンネームを使おうとも考えたが、担当者に「つまらん」とボツにされた。「本名を使ったことが漫画家になって一番後悔したこと」であるという。
商標法第4条第1項第8号では、他人の名前に一定の知名度がある場合、その名前を含む商標の登録を認めないとしています。
つまり、広く知られた他人の名前は、誰かが商標登録を受けると、その人が自分の名前を使うことに制約が生じることから、その人の人格権を守るために登録を認めないとしています。
他人の名前について要求される「知名度」とは、特定の分野において広く知られていることです。
特定の分野において広く知られている名前とすることで、分野を問わず広く知られている他人の名前についても保護されます。
なお、本記事でいう「保護」とは、本人が名前を独占できるという意味ではなく、本人以外誰にもその名前について登録を認めないという意味ですので誤解がないようにしてください。
また、知名度を有しない他人の名前については、この規定の対象とならないのですが、その名前とは無関係な人が不正の目的等で出願することも心配されます。
そのような悪質なケースでは、その人の人格権侵害が生じるおそれがあります。
そこで、出願した人の事情を考慮することで、無関係な人が不正の目的等でした出願も排除できるようになっています。
他人のペンネームを含む商標の取り扱いについて
これに対し、もし鳥山明先生の作者名がペンネームであった場合、他人の名前の場合と比べると、これが保護されるにはもっと高い知名度が要求されます。
商標法では、知名度のレベルとして「周知」「著名」の2つのレベルがあります。
「周知」よりも「著名」の方が、より高い知名度であることを意味します。
他人の名前の保護については、「周知」であることが要求されるのに対し、他人のペンネームの保護については、「著名」であることが要求される点で敷居が高いといえます。
鳥山明先生の作者名は既に知らない人はいないほど高い知名度があるので、「周知」でも「著名」でも問題はなく、保護されるでしょう。
しかし、鳥山明先生のように高い知名度を得られるケースは非常に少ないので、もしご自分が使っている作者名を無断で商標登録されたくないのでしたら、鳥山明先生のように本名を使うというのも一つの手です。
まとめ
知名度のある他人の名前やペンネームについては登録を受けることができません。
そして、ペンネームが保護されるには本名の場合よりも高い知名度が必要です。
商標としての価値があるからといって著名な人物の名前について登録を受けようとすると、法的なトラブルに巻き込まれる可能性があるので、注意が必要です。
皆さんには、商標登録を検討する際には法律的な側面をしっかりと理解し、専門家とも相談しながら正しい手続を進めていただきたいです。
商標登録は企業の大切な資産ですが、それを守りつつも、他人の権利も尊重することが大切です。