ビジネスの世界において、企業の顔ともいえるのがその商標です。
多くの企業が消費者に認知され、さらには信頼されるためには、商標の知名度を高めることが不可欠です。
本記事では、インドで「著名商標」と認定されたオムロン株式会社の事例を取り上げ、知名度の高い商標の重要性について解説します。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
オムロン社の「OMRON」、インドで「著名商標」に認定
オムロン社のブランド名「OMRON」が、2024年2月、国際的な商標の地位をさらに確固たるものにしました。
それはインドで「著名商標」の認定を受けたというニュースです。
「OMRON」ブランド、インドで著名商標に認定
オムロン株式会社のコーポレートブランド「OMRON」が、2024年2月にインドで「著名商標」として認定されました。これにより、商標の保護範囲が広がり、不正な商標の使用や登録による混乱を防止し、ブランド保護を強化することができます。
「著名商標」とは、インド国内において高い認知度を持つ商標が特許・意匠・商標・地理的表示総局によって認められるものです。
この認定により、インド市場におけるオムロン社の商標保護が一層強化され、ブランド価値の向上が期待されます。
2024年3月時点で、日本企業の著名商標は16件にとどまっており、オムロン社がこの中に名を連ねたことは日本企業にとっても明るいニュースです。
商標の価値は消費者の認知から生まれる
商標は、オムロン社のように使用し続け、消費者に認知されることで初めてその真価を発揮します。
企業のロゴや名称が消費者の心に強く刻まれることで、その商標はブランドとして確固たる地位を築くことができます。
商標は使用すればするほど価値が高まっていく点で、特許や意匠などの他の知的財産とは異なります。
したがって、知名度が高まるにつれて商標に対する保護の強化が必要となり、法制度も知名度の高い商標を手厚く保護しています。
知名度の高い商標への保護強化とは
日本の商標法においては、商標の知名度として「周知」と「著名」という2つのレベルが存在し、知名度に応じて保護が厚くなっています。
そのうちの一つとして、商標が類似しているかどうかの類似判断があります。
知名度がない普通の商標と、知名度が高い周知の商標では、類似の範囲が異なります。
イメージとしては、周知の商標は、普通の商標よりも類似の範囲が広がり、普通の商標であれば類似と判断されないような他社の商標であっても類似と判断され、他社の使用を禁止することができます。
例えば、A社の商標「ルイビトン」に対し、「シャインルイビトン」という商標をB社が使用していたとします。
類似判断とは、これら商標が類似するかどうかの判断ですが、類似していなければB社は商標を使用し続けられますが、類似していればB社は商標を使用することができなくなります。
類似するかどうかは、商標を使用できるかどうかの明暗を分ける重要な概念なのです。
A社の「ルイビトン」の知名度が普通の場合は、「シャイン」が商品の品質表示ではないから「シャインルイビトン」を一体として捉え、B社の「シャインルイビトン」は、A社の「ルイビトン」とは類似しないと判断されることがあります。
これに対し、A社の「ルイビトン」の知名度が周知の場合は、「シャインルイビトン」は周知の商標「ルイビトン」を含む商標であるから、B社の「シャインルイビトン」は、A社の「ルイビトン」と類似すると判断されます。
他人の周知商標に文字や図形等を結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上のつながりがあるものを含め、周知商標と類似するものと判断する。
引用:商標審査基準
このように「周知商標を含む」という理由だけで類似と判断される点が周知商標の保護の強さになります。
「シャインルイビトン」をみた消費者が「ルイビトン」の知名度からA社と関係のあるブランドと間違えるおそれがあるからです。
余談ですが、「周知商標を含む」には例外があります。
他社の商標が既成語の場合は類似しないとされています。
例えば、周知の商標「セガ」に対し、他社の商標「せがれ」は類似しないと判断します。
他社の商標からは「息子」の意味しか生じないので消費者がセガと間違えることはないという理由です。
まとめ
オムロン社がインドで「著名商標」と認定されたニュースは、同社のみならず日本企業全体にとっての大きな一歩です。
商標の知名度が高まることにより、消費者に対するブランドの認知が深まり、それが商標保護の厚い壁へとつながります。
中小企業の皆さまにとっても、この事例は自社のブランドを築く上での重要な示唆となることでしょう。
品質の高い商品やサービスを提供し続けることで、ブランドは自然と育まれていくものです。
積極的な市場展開と法的保護のバランスを取りながら、自社の商標を大切な資産として育てていくことが、ビジネスの成功へとつながります。