AI発明の「学習」をどう説明するか[1/4]
AIを使った技術について、
「現在のデータを学習済みモデルへ入力し、予測結果を出します」
と説明されることがあります。
実際にシステムを使う場面の説明としては、それで十分なこともあります。
ただ、発明を整理するときには、もう一つ確認したいことがあります。
今回の技術の違いは、学習済みモデルを使う場面で生まれているのか。それとも、そのモデルを作った場面にあるのか。
私は、ここを分けて見ます。
学習方法を何でも詳しく聞くためではありません。どちらを詳しく見る必要があるのかを決めるためです。
将星国際特許事務所、所長。AI、IT、ソフトウェア、ビジネスモデル、ネットワーク分野の特許を専門とする。データベーススペシャリスト等の資格を持ち、技術内容の整理から特許出願・権利化まで幅広く支援している。講演活動も行っている。
同じ予測処理に見えても、見るべき時間が違うことがある
例えば、配送時間を予測するAIを考えます。
実際に使うときには、現在の配送条件などを学習済みモデルへ入力し、予測配送時間を得ます。これは、モデルを使って答えを出す「推論(inference)」の場面です。
一方、そのモデルが作られた場面では、過去の配送に関する情報などを使って学習(training)が行われています。
典型的な学習済みモデルを使うシステムであれば、この二つは別の場面として分けて考えることができます。
私が気にするのは、この区別そのものではありません。
推論側の説明だけで、今回の技術上の特徴まで説明できているかです。
推論時の処理そのものに技術上の特徴があるのであれば、モデルを作った過程まで細かく見る必要はないかもしれません。
反対に、推論時には一般的な使い方に見えても、その予測を可能にしている理由が学習時の処理やモデルの作り方にあるのであれば、そこを背景として扱うと、今回の技術を特徴づける部分が抜けます。
外から見れば同じように「学習済みモデルへ入力して予測する」システムでも、技術上の意味が置かれている時間は同じとは限りません。
学習側を見るかどうかも、選ぶ
AIの発明だからといって、私は学習方法を必ず詳しく確認するわけではありません。
学習側に今回の技術と関係する工夫がないのであれば、そこを深く掘っても情報が増えるだけです。
一般的な方法でモデルを作り、その学習済みモデルをシステムの中でどう使うかに技術上の特徴があるなら、見るべき中心は推論側にあります。
一方、実現したい予測や判定が、モデルをどのように作ったかに依存しているのであれば、学習側を見る意味が大きくなります。
確認したいのは、
「学習工程がありますか」
ではありません。
推論側だけで、今回の技術を説明し切れるか。
説明し切れるなら、無理に学習側まで広げない。説明し切れないなら、モデルを作った側にも今回の技術に関係する工夫がないかを見る。
この切り分けが先です。
「学習済み」を出発点ではなく、境界として見る
「学習済みモデル」という言葉は便利です。
すでに作られたモデルを使う場面だけを見るなら、それ以前の工程をひとまとめにできます。
しかし、発明を考えるときには、その境界で一度立ち止まった方がよい場合があります。
私にとって「学習時」と「推論時」を分ける意味は、AIの仕組みを教科書的に整理することではありません。
発明として見るべき範囲を決めるためです。
なお、運用中にもモデルを適応・更新するシステムなどでは、学習時と推論時が時間的にきれいに分かれない場合もあります。
それでも、「モデルを使っている側」と「モデルを作り、変えている側」を分けて見ることで、今回の技術上の意味がどちらにあるのかを整理しやすくなります。
