AI発明の「学習」をどう説明するか[2/4]
製造条件やセンサ情報から、製品の状態を予測するAIがあるとします。
使う入力は同じです。
ただ、そのAIに「完成品の測定値」を予測させるのか、「合格/不合格」を判定させるのかで、AIに担わせている仕事は変わります。
私はAIの発明を整理するとき、学習データがあることを確認して終わりにはしません。
その学習データの中で、何を答えとして置いているのか。
ここを見ると、同じデータを使ったAIでも、その技術でAIにどのような役割を担わせようとしているのかが見えてくることがあります。
将星国際特許事務所、所長。AI、IT、ソフトウェア、ビジネスモデル、ネットワーク分野の特許を専門とする。データベーススペシャリスト等の資格を持ち、技術内容の整理から特許出願・権利化まで幅広く支援している。講演活動も行っている。
入力を変えなくても、学ばせる関係は変わる
例えば、ある製造設備について、製造条件と複数のセンサ情報が記録されているとします。
一つのモデルでは、それらを入力として、完成した製品の測定値を予測させる。
もう一つのモデルでは、同じ入力から、製品が合格か不合格かを判定させる。
入力だけを見れば、よく似ています。
しかし、学習データの答えとして置かれているものは違います。
測定値を答えとするなら、モデルには、製造条件やセンサ情報と測定値との関係を学ばせることになります。
合否を答えとするなら、学ばせるのは、同じ入力情報と合否との関係です。
その結果、モデルに求めている出力も、そのモデルをシステムの中で使う意味も変わります。
ここで重要なのは、どちらが優れているかではありません。
何を答えとして置いたかを見ることで、そのAIに何をさせようとしているのかが具体化する。
この点です。
「正解」は、世界に一つあるものとは限らない
教師あり学習では、入力と、それに対応するtargetやlabelなどを利用してモデルを学習させます。
一般には、これを「入力と正解データの組を使って学習する」と説明することがあります。
ただ、この「正解」という言葉には少し注意が必要です。
ここでいう正解は、必ずしも「世界に一つだけ存在する客観的な真実」という意味ではありません。
学習や評価では、target、label、reference、ground truthなどの言葉が使われます。呼び方や厳密な意味は文脈によって異なりますが、この記事で注目したいのは用語の整理ではなく、そのシステムが何を答えとして扱っているかです。
同じ現象についても、測定値を答えにする設計と、そこから導かれた分類結果を答えにする設計では、モデルに担わせる役割が同じとは限りません。
ですから、「正解データを使っています」という説明だけでは、学習の設計を十分には捉えられないことがあります。
targetが分かったら、その先を見る
targetが分かったら、私はそこで止まりません。
なぜ、その値を予測する必要があるのか。
なぜ、測定値ではなく合否を直接判定させるのか。
例えば測定値を出すのであれば、その値を後段の別の処理で使う設計かもしれません。合否を直接出すのであれば、AIの出力をそのまま後段の処理や制御につなげる設計かもしれません。
この違いを追っていくと、
何を予測するか。
その予測結果を何に使うか。
そのためにシステム全体をどう構成しているか。
という関係が見えてくることがあります。
大切なのは、targetの名前そのものではありません。
targetを変えれば、それだけで発明になるわけでもありません。
ただ、なぜその値を予測する必要があり、その出力を後段でどう使うのかまで見ると、AI単体ではなく、システム全体の構成や処理の意味が具体的になります。
特許実務で確認したいのも、そこです。
「正解データは何ですか」と聞くだけではなく、なぜそれを答えとして学ばせ、その結果を技術の中でどう使っているのか。
そこまでつながると、学習データの設定が発明の特徴とどのように関係しているのかを判断しやすくなります。
本シリーズのブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
・「学習済みモデルを使う」だけで発明は見えるか――技術の違いが生まれた時間を分けて見る
