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任天堂VS.ロム・ユニバース 米国知財裁判の事例について

こんにちは、弁理士の渡部です。
本日は、米国の知財裁判の事例についてお話しします。

海賊版ROMデータ頒布サイトの実態

ご存知の方もいるかもしれませんが、数年前までインターネット上に「海賊版ROMデータ配布サイト」が多数存在していました。

ROMデータというのは、要するに、ゲームソフトから取り出したゲームのプログラムデータです。
サイトによって仕様が違いますが、任天堂やプレステのゲームのROMデータを無断でインターネット上にアップロードし、一般ユーザがダウンロードできるようにするサイトです。
海賊版といっても、正規のゲームのROMデータを丸々コピーしたものですので、内容が劣化することもありません。

今回紹介する裁判は、当時最も巨大といわれた海賊版サイトである「ロムユニバース」の運営者マシュー・ストーマン氏に対し、米国任天堂が起こした裁判です。
ロムユニバースでは、任天堂のSwitch用ゲームのROMデータが30万回、3DS用ゲームのROMデータが50万回以上ダウンロードされたものと推測されます。

米国任天堂は、2019年、ロムユニバースに対し、著作権及び商標権侵害を理由に、サイトの閉鎖と損害賠償を求めて訴訟を提起しました。

ロムユニバースの2つの反論

これに対し、ロムユニバースは、①「セーフハーバー」の主張と、②消尽の主張を行いました。

①「セーフハーバー」というのは、米国著作権法の制度で、一定のルールのもとで行動する限りはその行為が違法とならない、というものです。
イメージとして分かりやすいのはyoutubeです。アップロードされた違法コンテンツを権利者の通知により適切に削除すれば、youtube自体は著作権侵害を問われない、とするものです。
ロムユニバースのビジネスモデルは、ユーザにゲームのROMデータをアップロードさせ、それをダウンロードするためには有料会員になる必要がある、とするものでした。
ユーザが勝手にアップロードしたROMデータが著作権侵害かどうかなんて知らないし、任天堂に言われれは削除したよ、youtubeと何が違うの、という主張です。

また、②消尽というのは、正規購入によりその物についての知的財産権は消滅する、という考え方です。正規に購入したゲームソフトを中古販売店に売っても著作権の侵害とならないのはこの消尽によるものです。
ロムユニバースは、ゲームソフトは各ユーザが正規に購入したものであり、そのユーザがそのROMデータをアップロードしているのだから知的財産権は消尽しているはずだ、と主張しました。

毎月50ドル「3500年分割」で支払う判決へ

しかし、訴訟において、ロムユニバースは、ユーザにROMデータをアップロードさせるだけでなく、自らもアップロードしていることが明らかになり、セーフハーバーの主張が崩れました。
また、消尽は、物として存在する中古ゲームソフト、いわゆるROMカートリッジやDVDには適用されますが、プログラムデータそのものには適用されるべきではありません。

結論として、ロムユニバースの主張は認められず、今年の5月、7月に続けて、任天堂勝訴の判決がされました。
これにより、ストーマン氏には日本円にして2憶5000万円の賠償が命じられ、今後同一のサービスが行えないことになりました。
任天堂は、当初16億円の請求をしていましたが、ストーマン氏が現在無職であることに鑑み、2億5000万円を毎月50ドルの「3500年分割」で支払う判決となりました。
ちなみにストーマン氏がこのサイトで得た収益は、年間で400万円弱だったそうです。

「消尽」は侵害かどうかを分ける分岐

さて、本事例に登場した「消尽」という言葉は、聞き慣れない言葉かもしれませんが、知的財産権の世界では重要な概念です。
知的財産権を侵害するかどうかを分ける分岐になるからです。

ただし、考え方が分かりにくいので、少し踏み込んで説明したいと思います。
日本でも、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権で消尽という取り扱いが行われています。
本事例で著作権の消尽が出てきましたので、著作権の消尽について具体例を挙げてお話しします。

例えば、私が、マリオパーティーのゲームカートリッジ(正規品)を購入したとします。
ゲームカートリッジに収録されたプログラムデータは任天堂の著作物であり、これは著作権で保護されています。
ところが、私がゲームカートリッジを購入した時点で、このゲームカートリッジに関する著作権は消尽します。
このため、私は、購入したゲームカートリッジをブックオフに売ったりメルカリで他人に売ったりすることができます。

しかし、あくまで物理的な媒体であるそのゲームカートリッジに限るという点が注意です。
つまり、ゲームカートリッジを購入したからといって私が、ゲームカートリッジに記録されているプログラムデータをコピーしたり、それをインターネットサイトで配信したりすることまでは認められません。

「物であるゲームカートリッジ」と、「中身であるデータ」は分けて考えることが必要です。
購入することで消尽が認められるのは、あくまでそのゲームカートリッジ現物そのものだけであるということです。

消尽3つの例

分かりにくいので他の例も見てみましょう。
1.ゲームの攻略本を購入したら、その攻略本そのものを売ってもよいが、攻略本に掲載されている写真や文章をコピーするのはダメ。
2.ゲームミュージックを収録したCDを購入したら、そのCDそのものを売ってもよいが、CDに収録されているゲームミュージックをコピーするのはダメ。
3.マリオがプリントされたTシャツを購入したら、そのTシャツそのものを売ってもよいが、Tシャツのマリオをコピーするのはダメ。

まとめ

著作権は消尽が法律で規定されていますが、他の知的財産権は法律には規定されておらず、解釈による運用になっています。
このことも一般に知られていない要因になっています。
しかし、消尽は、知的財産権を侵害するかどうかを分ける分岐になりますからとても重要なのです。
事業で押さえておきたいポイントです。
以下、本記事のまとめです。

・消尽とは、正規に購入した場合、その物の知的財産権は消滅する。
・ただし、消尽は、あくまでその現物そのものだけである。
・現物を売ってもよいが、中身のデータは無断で利用できない。

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