
こんにちは、弁理士の渡部です。
本日は、人の名前を使ったブランディングは可能なのかについてお話しします。
人の名前の商標登録で特許庁が完敗
人の名前(氏と名)は商標登録を受けられるのか、というところに切り込んだ判決が出ました。
ご存知、「マツモトキヨシ」♪のメロディーについて商標登録を認めない特許庁の判断は誤りだ、とする知財高裁の判決です。
つまり、商標登録を認めるべきであるという判決です。
株式会社マツモトキヨシHD(以下「マツキヨHD」)は、「マツモトキヨシ」♪のメロディーについて商標出願をしていましたが、2018年3月に拒絶されました。
マツキヨHDは、特許庁の判断を不服として特許庁の上級審に審判を請求したのが、同年6月です。
しかし、審判でも商標登録が認められないという判断がされます。
これに対し、マツキヨHDは知財高裁に判断の取消を求めて提起しました。
そこで、マツキヨHDは、特許庁の判断が誤りであるとの判決を勝ち取った、という流れです。
人の名前は商標登録が認められない
特許庁が商標登録を認めなかったのは、「マツモトキヨシ」♪のメロディーに含まれている「マツモトキヨシ」が人の名前だからです。
特許庁の審査では、「他人の名前を含む商標は商標登録を受けられない」というルールがあります。
マツキヨHDの「マツモトキヨシ」は、創業者である松本清さんの名前をそのまま社名としたものですので、言ってみれば「他人」ではありません。
しかし、日本には、創業者である松本清さん以外にも「マツモトキヨシ」さんは少なからず実在します。
となれば、「マツモトキヨシ」♪のメロディーは、創業者の名前であるとともに他人の名前を含むので商標登録を受けられない、ということになるわけです。
このルールは、マツキヨHD以外のマツモトキヨシさんを尊重し、その方の承諾なしにその名前を商標に使われることがない利益を保護するために存在します。
断りなく私の名前を商標に使わないでね、ということです。
自分の名前はブランド名に絶対にできないのか?
この考え方はよく分かるのですが、一方で、人の名前について頑なに商標登録を認めないというのも不都合が生じます。
マツモトキヨシだけでなく、名前をブランドとして使用しているケースは現実において少なくありません。
特にファッション業界のデザイナーズブランドや、芸能界のアイドルプロモーションなどでは、デザイナー「ISSEY MIYAKE」とか、アイドル「AMURO NAMIE」とか、名前そのままをブランド化するのは何ら珍しいことではありません。
これらのブランドについて商標登録が認められないとすると、業界の実情に反し、容易に模倣を許すことになります。
また、日本国内で商標登録を受けられないと国際出願がしにくいという問題点もあります。
過去の審査では、そのような事情を鑑み、商標登録が認められた商標も少なくありません。
登録1678376号「YOHJI YAMAMOTO」
登録4810546号「ISSEY MIYAKE」
登録5175268号「HANAE MORI」
登録3370693号「宮沢りえ」
登録4069224号「安室奈美恵\AMURO」
一方で、
商願2010-040472「TAKAHIRO MIYASHITA」
商願2017-069467「KENKIKUCHI」
商願2002-094936「鈴木亜美」
商願2014-058648「観月ありさ」
などは商標登録が認められていません。
ボーダーが非常に微妙です。
特に近年は人の名前と把握される商標について審査が厳しくなっており、「ほぼ認められない」といって良い状況が続いていました。
特許庁も裁判所も割れまくる判断
そこに一石を投じたのが今回の判決です。
今回の判決も含め、人の名前については、登録例も判決も判断が割れており、その基準が非常に分かりにくいものになっています。
今回の商標「マツモトキヨシ」はメロディーの商標でしたが、文字の商標「マツモトキヨシ」は1999年の時点で商標登録が認められています。
人の名前がブランド名として機能すること自体は疑いがないのですが、他人の名前の保護をどのように考えるかで、時代により結論に違いが出ています。
今回の判決が最高裁に上がれば、商標登録できるできないのボーダーが最高裁で示されたのかもしれませんが、特許庁は今回の判決について上告しませんでした。
人の名前の商標登録については、まだ混乱が続くものと考えられます。
まとめ
自分の名前をブランド名として使おうとしている方、また商標登録をお考えの方は、できればブランド名として使い始める前に専門家にご相談いただくとよいでしょう。
以下、本記事のまとめです。
・他人の名前を含む商標は商標登録が認められないが原則である。
・例外として商標登録が認められるケースもあり、「マツモトキヨシ」♪のメロディーは例外を勝ち取った事例である。
・特許庁も裁判所も判断が割れており、ボーダーが非常に微妙であるので、自分の名前をブランド名にするには商標登録が認められるかどうか念入りに下調べをするのがよい。