こんにちは、弁理士の渡部です。
本日は、トイレットペーパーを巡る特許侵害事件についてお話をします。
クレシアvs大王製紙の争いがまたもや勃発
9月6日、製紙業界大手の日本製紙クレシア(以下「クレシア」)が、自社の特許を侵害しているとして大王製紙を訴えました。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022090601010&g=eco
クレシア「スコッティ3倍長持ち」vs大王製紙「エリエール3.2倍巻」!!
さて、毎日使うトイレットペーパーですが、改めて最近のトイレットペーパーに意識を向けると、最近のトイレットペーパーって、気持ちいいですよね。
吸水力が高く、安心感があって、肌触りも良い。しかも長持ち。
トイレットペーパーには気持ちいい技術がぎっしり
たかがトイレットペーパーとあなどるなかれ。
地味ではありますが、いまのトイレットペーパーは様々な技術が積み重ねられた努力の結晶なのです。
近年売れ筋のトイレットペーパーは長巻傾向にあります。
1990年代においては、1パック25m巻き12個入りというのが普通でしたが、2000年代に入り50m巻き6個入が販売され、現在は75m巻き4個というパックが売れ筋になっています。
大王製紙のエリエールは、80m巻き4個なので1990年物に比べると「3.2倍」です。
長く巻いたら長持ちするのは当たり前…ですけど、単にグルグル巻いたらトイレットロールが大きくなりホルダーに入りません。
とはいえ、トイレットペーパーをペラッペラにすれば、長くはできても使用感は悪くなる。
いまのトイレットペーパーは、厚みを減らして長く巻きながら使用感を向上させているのです!
何気にすごい技術!
ちなみに大王製紙は、トイレットペーパー関連で28件の特許出願をしています。
対して、クレシアに至っては54件もの特許出願をしています。
製造方法の特許の弱点
さて、今回の訴訟は、クレシアの特許を大王製紙が侵害しているという訴えです。
クレシアの特許は、長巻トイレットロールを「製造する方法」に関する特許です。
この「製造方法の特許」というのは、ちょっと難しいところがあります。
特許には、「物の特許」「方法の特許」「製造方法の特許」という3つのカテゴリーがあります。
このうち「製造方法の特許」とは、例えば、食パンを作る場合、従来の作り方だと1時間かかっていたものを、新しい方法で作ると10分で作れる、というような特許です。
画期的ですよね。
しかし、食パンの画期的な製造方法って、ちゃんと独占できるのでしょうか。
出来上がった食パン自体が従来品と同じものであるとしたら、外から見たって特許を侵害しているか分かりようがないわけです。
隣り町のパン屋が自社の特許を侵害して食パンを作っているかどうか、その工場に乗り込まないと分かりません。
ですので、「製造方法の特許」は、相手方が特許を侵害しているかどうか分かりにくいという問題があります。
弱点をフォローする訴訟制度
そこで、「製造方法の特許」について、訴えられた側が、特許を侵害していないよ!と主張するときは、同時に自社の製造方法を開示し、特許との違いを説明しなければならないというルールが設けられています。
クレシアが、今回の問題を訴訟に持ち込むことで、大王製紙はどうやって「エリエール3.2倍巻」を製造しているかを明らかにしなければならず、今後、大王製紙がクレシアの特許を踏んでいるかどうか明らかになってくると思います。
クレシアとしては、「製造方法の特許」を行使することにより、敵の手の内(製造方法)を知ることができるという側面もあります。
ただし、製造方法は、企業秘密であることが多く、その場合は、大王製紙が自社の製造方法を開示できないと反論することができます。
果たして大王製紙の製造方法が開示されるのか!?、といった点も含め今後の展開に目が離せません。
まとめ
ところで、我が国では、同業種間において訴訟を避ける傾向にあり、多数の特許をお互いに保有する大企業同士が訴訟で争うことはあまり多くありません。
しかし、今回クレシアは積極的に事件を訴訟の場に移しました。
実は、クレシアと大王製紙は、過去に、保湿ティッシュの製造方法の特許を巡り壮絶な訴訟を繰り広げたことがあります。
エリエールvsクリネックス訴訟です。
そのときは、大王製紙の方がクレシアを訴えました。
今回とは逆の立場です。
そして、訴訟は知財高裁までにもつれ込み、訴えた大王製紙が敗訴した、という経緯があります。
クレシアとして、過去に大王製紙から訴えられたことが、今回訴訟に踏み切るハードルを下げたことは間違いないと思います。
一方で、大王製紙の立場からすると、過去に自社から訴えた訴訟で敗訴し、今回も敗訴するとなれば企業ブランドへのダメージも小さくないでしょう。
両社とも譲れない一線です。
トイレットペーパーとはいえ、簡単に水に流す、というわけにはいかなそうです。
以下、本記事のまとめです。
・特許には「物」「方法」「製造方法」の3つのカテゴリーがある
・製造方法の特許は侵害の発見が難しい
・しかし、訴えられたら自社の製造方法を開示しないといけない