AI発明の「学習」をどう説明するか[4/4]
「このAIは、利用データから自己学習します。」
分かりやすい説明ですが、発明の構造として考えると、まだかなり幅があります。
利用データを自動で集めるところまでなのか。
集めたデータを学習材料として取り込むところまでなのか。
学習するときに答えとして参照する情報も得られるのか。
学習処理まで自動で進み、モデルのparameterが変更されるのか。
どれも「自己学習」という言葉で説明される可能性がありますが、システムとして行っていることは違います。
私はこの言葉を聞いたとき、まず用語を言い換えるのではなく、どこからどこまでが自動なのかを見ます。
将星国際特許事務所、所長。AI、IT、ソフトウェア、ビジネスモデル、ネットワーク分野の特許を専門とする。データベーススペシャリスト等の資格を持ち、技術内容の整理から特許出願・権利化まで幅広く支援している。講演活動も行っている。
「自己学習」の中に、自動化の境界がある
例えば、AIの利用履歴が自動的に保存されるシステムを考えます。
データの収集は自動です。
しかし、そのデータを保存しているだけなら、学習済みモデルは変わりません。
保存されたデータを学習材料として使うとしても、それだけではまだ、
何を答えとして学習するのか。
予測結果をどう評価して学習するのか。
学習処理そのものを誰が、または何が実行するのか。
といった部分は決まりません。
例えば、
「利用データは自動で蓄積されるが、追加学習は開発者が実行する」
というシステムと、
「利用データを学習材料として取り込み、学習処理までシステム側で実行する」
というシステムでは、自動化されている範囲が違います。
「自己学習するか、しないか」の二択で見るより、処理のどこに人の操作が入り、どこから自動で進むのかを見た方が、システムの構造は具体的になります。
技術用語を当てはめても、自動化の境界は決まらない
「自己学習」という言葉から、特定の学習方式を推測するのも注意が必要です。
例えば、self-supervised learning(自己教師あり学習)は、データそのものから学習に使う答えや課題を構成する方式です。
だからといって、運用中にモデルが自動で更新され続けることを意味するわけではありません。
online learningでは、逐次的に入ってくるデータを使って学習や更新を行う方式があります。
continual learningは、新しいデータやタスクを順次学んでいく状況を扱う研究領域です。
fine-tuningは、既に学習されたモデルを追加学習によって特定の用途などへ適応させることを指します。
これらは同じ意味の言葉ではなく、どれか一つを「自己学習」の正式名称として当てはめれば済むものでもありません。
しかも、方式の名前が分かっても、そのシステムのどの処理までが自動化されているかは別に確認する必要があります。
ここで欲しいのは用語の正解ではなく、実装の説明です。
発明を見るなら、「自動化の境界」を実装へ戻す
「自己学習します」という言葉が問題なのではありません。
概要を伝えるには便利です。
ただ、発明を整理する段階では、その一語のままでは、今回の技術と関係する処理まで一緒に包まれてしまうことがあります。
例えば、自動化されているのが単なるデータ収集だけなら、モデルの学習そのものは今回の技術の中心ではないかもしれません。
一方、取得したデータを学習材料へ変え、学習に必要な情報を使って評価し、モデル変更まで進める一連の処理に工夫があるのであれば、「自己学習」という一語では粗すぎます。
だから私は、
「自己学習するAIです」
という説明を、
「具体的に、何が人の操作なしに進み、その結果として何が変わるシステムなのか」
という形に戻します。
このとき重要なのは、処理を細かく並べること自体ではありません。
どこまで自動化したことが、今回の技術で実現していることと関係しているのかを見ることです。
「自己学習」という言葉を使うかどうかより、自社のシステムについて、
何を学習材料にしているのか。
何を答えとして扱っているのか。
その答えとの関係をどう評価して学習するのか。
どの処理までが自動なのか。
その結果、モデルの何が変わるのか。
そこまで説明できれば、「自己学習」という機能説明を、発明として検討できる実装へ戻すことができます。
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