厚木名物ホルモン焼き「シロコロ」が商標権問題により消滅!?
B-1グランプリで優勝し一躍有名になったシロコロが、なぜ使えなくなったのでしょうか?
その背景には、商標権の売却交渉の決裂、更新手続の難しさ、そして共有名義の落とし穴がありました。
本記事では、シロコロの事例を踏まえ、商標権の取引の難しさ、共有名義の落とし穴、そして長期的なブランド維持のための対策について解説します。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
目次
シロコロの落日
皆さんは、「シロコロ」をご存知でしょうか。
神奈川県厚木市の豚ホルモン焼きで、厚木市の名物として一時期話題になりました。
私も好きでしたが、この「シロコロ」、今は存在しません。
何故でしょうか。
実は、「シロコロ」という商標をめぐり、厚木市を巻き込んでの騒動があったからです。
B-1グランプリで一躍有名に
このホルモン焼きは従来から厚木で食べられていたものなのですが、厚木市を盛り上げようと、商店街連合会が町おこしチームを作り「シロコロ」の名称で事業を展開しました。
町おこしチームである「厚木シロコロ・ホルモン探検隊」は、2008年にB-1グランプリで見事優勝を果たし、「シロコロ」は一躍全国的に有名になります。
売却交渉が暗礁に、町の飲食店が使えなくなり
「シロコロ」は、チームの代表者2名の名義で商標登録を取得し、市内の飲食店は、そこからライセンスを受け「シロコロ」の名称をメニューや看板に使っていました。
ところが、2019年秋にチームが解散することとなり、代表者が持っていた商標権を厚木市に売却するため交渉が持たれました。
しかし、売却の条件が折り合わず交渉は決裂します。
条件のなかでも特に金額に関する部分が大きかったのではないかと思います。
このため、市内の飲食店に行われていたライセンスも失効し、誰も「シロコロ」を使えなくなってしまいました。
商標更新でブランドがまさかの危機に?
商標権は登録から10年ごとに更新が必要です。
「シロコロ」関連の商標権は4件登録されており、このうち3件は、今年令和3年に期間満了を迎えます。
更新手続がされなければ商標権は消滅し、市内の飲食店は再び「シロコロ」を使えるようになります。
しかし、商標権の制約がなくなれば、厚木市内の飲食店だけでなく、誰でも「シロコロ」の名称を使えるようになります。
そうすると、今まで、あの独特の味とブランド名「シロコロ」を結びつけて消費者に記憶してもらっていたところ、様々な味について「シロコロ」が使われてしまうと、「ああ、シロコロってホルモン焼きのことね。」といった普通名称のように消費者に理解されてしまいます。
これを「普通名称化」といって、特定の品質を表すものではなく、ブランドの終わりを意味します。
商標権の売却の難しさ
さて、このシロコロホルモンの事例では、①商標権の売却という点、②共有名義の落とし穴の2つのポイントがあります。
まず、1つ目のポイントです。
商標権は取引が難しいということです。
互いにその金額が高いのか安いのかが分からないからです。
チーム代表者としては、商標登録を取得した費用だとか、PRに要した費用だとかを積み上げて金額を決めたのかもしれません。
しかし一方の厚木市としては、税金で購入することになるので、それが適正な価格なのかどうなのか分からないと購入が難しい事情があります。
市民に説明を求められたときにきちんと説明できることが必要があるからです。
そういったときは、弁理士に価格を算定してもらうとよいでしょう。
専門家に価格を算定してもらうことで「適正」という点が担保できるからです。
共有名義の落とし穴
次に、2つ目のポイントです。
共有名義は、商標登録の取得費用が折半できるなどスタートアップ時にはメリットがありますが、仲が悪くなると調整が難しくなります。
更新手続は、共有者全員一緒に行う必要がありますが、取得から10年も経つと当初の仲を維持できてなく、調整ができなくて更新手続が行えないということもあります。
今回の件も、代表者の仲については取り上げられていませんが、代表者同士に何らかの利害があれば更新手続が行えない可能性が出てきます。
商標権の共有について詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
商標権の共有という毒薬
まとめ
商標登録は長く使い続けるブランド名を守るものであることから、商標権は長く保持することが前提の権利といえます。
スタートアップのメリットよりも長期保持のメリットを考え、できれば単独名義で取得するのがよいでしょう。
以下、本記事のまとめです。
・商標権は取引が難しく、互いに価値が高いのか安いのかが分からない。
・共有名義は仲が悪くなると調整が難しい。
・更新は共同で必要だが、調整が付かず、更新できないこともある。できれば単独名義がよい。