「きのこの山ワイヤレスイヤホン」が発売と同時に完売する程の人気を博し話題となっています(ニュース)。
このワイヤレスイヤホンは、立体商標の登録が認められているお菓子のきのこの山をモチーフにしたものですが、果たして立体商標の登録を受けられるのかどうか、気になる方もいるかもしれません。
本記事では、きのこの山ワイヤレスイヤホンが立体商標の登録を受けられるかどうかについて考えてみます。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
立体商標の登録要件
まず、立体商標の登録を受けるためには、いくつかの登録要件を満たす必要があります。
立体商標では、次の2つの要件があります。
1. 識別力
商品の形状を普通に表現した立体商標でないこと
2. 知名度
商品の形状を普通に表現した立体商標であっても、高い知名度があって広く商標として認識されていること
きのこの山ワイヤレスイヤホンの識別力について
識別力について考えてみましょう。
「商品の形状を普通に」とありますが、ここでいう「普通」が皆さまが認識されている普通とはおそらく違うでしょう。
特許庁の審査では、次の2つの場合は「普通」と判断するといっています。
・商品の形状が、商品の機能や美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合
・商品の形状が、通常の形状より変更され又は装飾が施される等により特徴を有していたとしても、機能や美感上の理由による形状の変更又は装飾等と予測し得る範囲のものであれば、その形状は、商品の機能や美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合
要するに、形状にいくら特徴があってもそれだけでは登録は認めないよ、といっています。
この「普通」という厚い壁に阻まれ、敗れ去った戦士達を紹介します。
ユニチャーム社の立体マスク
ユニチャーム社の立体マスクについて、立体商標の登録が認められない理由は次のとおりです。
・本願商標は、一般的な「立体型マスク」と共通する形状をしており、その形状は、花粉やほこりなどを吸入しないようにすることや、飛沫の飛散を防ぐために、顔との密着性を高めたり、装着時の息苦しさを緩和させることなどを目的とした「立体型マスク」の基本的な形状である。
・本願商標の鼻及び口を覆う前部がくちばしのようにややとがっている形状や、耳にかける部分の空間が端に向かって細く、鼻及び口を覆う前部に向かって、その先が下向きにややとがっている形状も、いずれも商品の機能を効果的に発揮させることを目的としたものである。
レゴ社のロボット型ブロック
ロボット型ブロックについて、立体商標の登録が認められない理由は次のとおりです。
・人型の立体的形状は、「おもちゃ、組立おもちゃ」において基本的な形状であり、消費者は様々な形状の商品が存在することを認識している。
・本願商標の形状は、頭部、胴体、両手、両足といった基本的な構成に加えて、角丸の円柱状の頭部、台形の胴体、ロボットのような手、円形の図形を配した足といった特徴を有する。
・これらの特徴は、商品の機能向上や見た目の美しさのために採用されたものであり、消費者はこれらの特徴から機能や美観を連想する。
宝ホールディングス社のハイボール缶
宝ホールディングス社のハイボール缶について、立体商標の登録が認められない理由は次のとおりです。
・円柱状の形状は、アルコール飲料の容器として一般的に用いられている形状である。
・側面の細かい凹凸模様や金色の着色は、商品の魅力向上や需要者の関心を引く等の目的で広く用いられている装飾である。
・これらの形状や装飾は、商品の機能や美感に資する目的で採用されたものであり、商品の出所を表示する機能を果たすとは認められない。
上記事例をみると、いずれも手厳しい判断であることが分かります。
では、きのこの山ワイヤレスイヤホンは、どうでしょうか。
前のブログでは、傘の半分からイヤピースが飛び出している形状が、ワイヤレスイヤホンのデザインとして斬新さを与えるということを述べました。
しかし、それは意匠登録を受ける上での評価です。
立体商標の登録を受ける上で評価でいうと、この程度の特徴では、残念ながら上記事例と同様に「普通」という判断がなされるでしょう。
きのこの山ワイヤレスイヤホンの知名度について
商品の形状を普通に表現した立体商標であっても、高い知名度があって広く商標として認識されていれば、例外的に立体商標の登録が認められます。
お菓子のきのこの山も、長年の販売実績が考慮された結果、高い知名度があって広く商標として認識されていると判断されたことで、立体商標の登録が認められました。
立体商標の登録が認められる知名度とは、全国的に知られているというとても高いレベルが必要です。
お菓子のきのこの山は、写真を見れば90%の人が明治社の「きのこの山」と認識できるほど高い知名度を獲得し、これが立体商標の登録の決め手となりました。
一方、きのこの山ワイヤレスイヤホンは、発売と同時に完売する程の人気を博したとはいえ、まだ発売から間もないため、お菓子のきのこの山と同等の知名度を獲得しているとは言い難いです。
きのこの山ワイヤレスイヤホンについて立体商標の登録が認められるためには、商品販売やプロモーションの実績を積み、知名度向上に努める必要があるでしょう。
なぜ立体商標はかくも壁が厚いのか?
立体商標はなんと壁が厚いことか!という印象を受けた方が多いことでしょう。
大企業が立体商標の登録に挑む姿は、まるでエベレストの登頂を目指しているかのようです。
いえ、比喩ではなく実際にそのとおりです。
商品の形状は、企業が自由に採用できるべきものであるという考え方があります。
商品の形状が次々商標登録で保護されてしまうと、企業が商品の形状を自由に設計できなくなり、商品設計の幅が狭まってしまう可能性があります。
また、商標権は更新する限り半永久的に保持することができるので、商標登録で独占を認めることはよほどの事情が必要になってくるわけです。
なお、商品の形状については、意匠登録で保護するようになっていますので、立体商標よりも、まずは意匠登録で保護することを優先に検討されるとよいでしょう。
まとめ
持続的な人気と知名度の獲得が立体商標の鍵となります。
きのこの山ワイヤレスイヤホンは、その独特な形状と愛らしさで多くの人々の心を掴みましたが、立体商標の登録に至るにはまだ道半ばです。
これからも多くの人々に親しまれ、その存在感を高めていくことが、立体商標として認められる第一歩かもしれません。
簡単ではありませんが、その取り組みはきっと大きな価値を生み出してくれるはずです。
きのこの山について解説したブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
・優れたブランド名にみる「きのこの山」
・きのこの山ワイヤレスイヤホン転売の商標権侵害リスク
・きのこの山ワイヤレスイヤホンは意匠登録を受けられるか?
・お菓子からイヤホンへ、愛されるブランド「きのこの山」の革新的な進化
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姉妹品「タケノコの里」の立体商標について解説したブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
・知財でござる第20巻「奇跡の立体商標登録!たけのこの里」をUPしました!
・「たけのこの里」あの形に商標登録が!?42年の時を経て勝ち取ったわけ