商標の仕事をしていると、「似ている」という言葉をよく使います。
先行商標を調べて、この商標とは類似するのか、しないのかを考える。
では、「先行商標とは非類似と考えられます」というところまで確認できたら、ブランドとしても十分に違うと言ってよいのでしょうか。
私は、ここは分けて考えた方がよいと思っています。
商標として「似ていない」ことと、競合の中で「違って見える」こと。
重なる部分はありますが、同じ問題ではありません。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
目次
商標実務でいう「似ている」とは
商標法上の類否は、単に二つのロゴを横に並べて、形が似ているかどうかだけを見るものではありません。
特許庁の商標審査基準では、商標の外観、称呼、観念を踏まえ、需要者に与える印象、記憶、連想などを総合して判断します。また、指定商品・役務の主な需要者や取引の実情も考慮し、需要者が通常有する注意力を基準に判断するとされています。
つまり、
- 見た目が似ているか。
- 呼び方が似ているか。
- 意味が似ているか。
という三項目を機械的にチェックして決まるものではありません。
さらに、商標法第4条第1項第11号との関係では、商標だけでなく、その商標を使用する商品・役務の関係も問題になります。特許庁も、他人の先行登録商標との関係では、商標同士の類否と商品・役務同士の類否の双方を見ると説明しています。
商標としての「似ている」には、法律上の判断枠組みがあります。
「非類似」は、ブランドの差別化まで保証しない
ここで少し視点を変えます。
二つの商標について検討した結果、法的には非類似と評価できそうだとします。
では、その二つはブランドとしても十分に違って見えるのでしょうか。
そこまでは言えません。
例えば、ある業界で、
- 細い線。
- 青系の色。
- 円形を基調とした図形。
- 淡いグラデーション。
- 点と点がつながるようなネットワーク表現。
そうしたロゴが多く使われていたとします。
一つ一つを比べれば、形も会社名も違う。仮に商標法上も、それぞれ別の商標と評価されるとします。
それでも20社を一度に並べると、「全部、同じようなIT企業に見える」ということはあり得ます。
法律上、先行商標とどの程度近いのかを見ることと、競合の中で自社だけの印象を持てているかを見ることでは、評価しているものが違うからです。
商標調査と競合比較は、見ている方向が違う
この違いは、AIでロゴを作るときに特に気になります。
AIで何十案も作り、その中から気に入ったものを選ぶ。
その後、先行商標を調査して、「この形なら登録できそうだ」となった。
そこで安心してしまいたくなります。
もちろん、登録可能性の確認は重要です。
ただ、それとは別に、そのロゴを競合企業のロゴと一緒に並べてみる必要があります。
先行商標調査で見るのは、その商標を採用したときに、先行する他人の商標との関係でどのような法的問題があるか。
競合比較で見るのは、そのブランドが市場の中でどう見えるかです。
商標調査では問題が見つからなくても、競合20社の中へ入れると急に埋もれてしまうことがあります。
反対に、ブランドとしてかなり個性的に見えても、先行商標との関係では法的な検討が必要になることがあります。
片方を確認したから、もう片方も大丈夫とは限りません。
登録可能性を判断する仕事と、強いブランドを作る仕事
この二つは、どちらが重要かという関係ではありません。
商標の側では、他人の権利との関係を確認し、どこまで安全に権利を取得・使用できるかを考える。
ブランドの側では、多くの競合の中で、どうすれば自社を認識してもらい、覚えてもらえるかを考える。
もちろん、両者には接点があります。
特徴のあるブランドマークは商標としても重要ですし、商標権は、そのブランドに蓄積していく信用を守るための一つの手段になります。
ただ、「登録できるから、このロゴでよい」と考えるのは少し早い。
登録できることは、そのブランドが競合の中で十分に違って見えることまで意味しているわけではありません。
検索結果と競合一覧の両方を見る
AIでロゴを作るなら、私は二つの画面を見た方がよいと思います。
一つは、先行商標を調べる画面。
もう一つは、競合企業のロゴを並べた画面です。
前者では、他人の権利との距離を見る。
後者では、市場の中での自社の距離を見る。
前回は、AIによって一つ一つのロゴが上手になっても、全体として同じ方向へ集まる可能性を考えました。
もしそうなら、先行商標との類否だけを見ていても、この問題は十分には見えてきません。
似ていないことを確認したあとで、ちゃんと違って見えるかをもう一度見る。
AIでロゴを作るときには、この二段階が必要なのだと思います。
本シリーズのブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
・AIで作ったロゴは、本当に「気持ち悪い」のか
・上手なのに、覚えられない――AIロゴで気になる「平均化」
