商品のヒットは多くの経営者にとって夢のような話ですが、その成功の裏側には、時に予期せぬリスクが潜んでいます。
最近では、「きのこの山ワイヤレスイヤホン」がその例で、発売と同時に品切れを起こすほどの人気を博しました(ニュース)。
しかし、このような現象は転売市場において高額な取引を引き起こしがちです。
今日は、商品転売における注意点として、商標権侵害のリスクについて考えてみましょう。
中小企業の経営者の皆さまも、ビジネスチャンスを見極めるうえで、法的なトラブルを避ける知識は不可欠です。
本記事では、以下の実際の事例を通して、転売がどのように商標権侵害に繋がる可能性があるのか、その理由を掘り下げていきます。
将星国際特許事務所、所長。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業のブランディングと商標登録の支援に数多く携わっている。特許はAI、IT、ビジネスモデルを専門とする。講演活動も積極的に行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
脱獄iPhone事件
商標法に基づく商標権侵害について、まずは「脱獄iPhone事件」を挙げましょう。
この事例では、改造されたiPhoneが販売され、商標権侵害での逮捕に至りました。
商標「iPhone」には、アップルのスマートフォンであることを示す機能だけでなく、そのスマートフォンについてアップルが提供する品質があることを保証する機能もあります。
改造されたiPhoneは、元のiPhoneとして期待される品質を保持しないため、商標が保証する品質を損ない、他社の商標の不正使用になります。
小売業者が本来の機能を損なわずに未開封で販売する場合や中古品として販売する場合は、商標権侵害には当たらないとされています。
しかし、この事例のように改造を施した商品の場合、消費者が他社が提供していると認識しつつ実際は異なる品質である場合、商標権の侵害となります。
脱獄iPhone事件について解説したブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
脱獄iPhone販売で商標権侵害した男が御用。新品販売や中古販売とは何が違う?
アップサイクル事件
次に、「アップサイクル事件」です。
この事例では、ルイ・ヴィトンのバッグを購入後、加工して転売する行為が争われました。
一見すると自由な行為のように思えますが、元となるバッグに付されていたルイ・ヴィトンのモノグラム柄やロゴをそのまま使用したことが問題となりました。
ルイ・ヴィトンのモノグラム柄やロゴにも、商標と同様に、ルイ・ヴィトンのバッグであることを示す機能だけでなく、そのバッグについてルイ・ヴィトンが提供する品質があることを保証する機能もあります。
加工されたバッグは、元のバッグとして期待される品質を保持しないため、商標が保証する品質を損ない、他社の商標の不正使用になります。
この事例のように、加工した商品を元の商標が付いたまま販売すると、消費者が他社が提供していると認識しつつ実際は異なる品質である場合、商標権の侵害となります。
アップサイクルについて解説したブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
アップサイクルと商標権侵害
ファミコン連射改造事件
最後に、「ファミコン連射改造事件」を見てみましょう。
1985年のこの事件では、改造されたファミコンの連射機能を追加した商品が商標権侵害で訴えられました。
改造により機能が拡張されたことで新たな商品とみなされ、消費者が任天堂の純正品と誤認するおそれがあるとして、任天堂の商標権を侵害すると判断されました。
商標権侵害の考え方は、脱獄iPhoneと同じです。
まとめ
これらの事例から学ぶべき点は、商品の転売においては、元の商品の商標権に留意することがとても重要であるということです。
特に改造や加工を加えた場合、商標の品質保証機能を損なわないように留意する必要があります。
きのこの山ワイヤレスイヤホンを転売する場合も、これらの法的知識を踏まえ、リスクを避けるようにしましょう。
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