AIロゴをブランドとして考える[7/8]
AIで作ったロゴについて、商標登録ができた。
では、これでそのロゴは「自社のもの」として一通り守られるのでしょうか。
そうとは限りません。
前回は、文字、図形、結合ロゴなど、実際に使う形のうち何を商標として守るのかを考えました。
しかし、商標登録できたことと、その図柄が著作権で保護されることは別の問題です。
さらに、生成AIサービスの利用条件や、第三者が持つ既存の権利との関係もあります。
AIロゴについては、「権利があるか」と一つにまとめるのではなく、何の権利について確認しているのかを分けて考える必要があります。
将星国際特許事務所、所長。商標・ブランディングを専門とする。ブランド・マネージャーの資格を持ち、中小企業を中心に商標登録からブランディングまで幅広く支援している。講演活動も行っており、神奈川県優良産業人表彰を受賞している。
目次
商標登録できたことと、著作権があることは別
まず、商標権と著作権は別の制度です。
商標権は、特許庁への出願・審査を経て設定登録されることによって発生し、登録した商標と指定商品・役務を基礎として効力を考えます。
一方、著作権は違います。
著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」で、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものと定義しています。著作物であれば、著作権は創作によって発生し、権利を取得するために商標のような登録を必要としません。
したがって、あるロゴが商標登録されたからといって、その図柄が当然に著作物になるわけではありません。
商標登録できるか。
著作権で保護されるか。
同じロゴを見ていても、別の問いです。
著作権は、まず「著作物か」から始まる
ロゴについて著作権を考えるときは、まず、
その表現自体が、著作権法上の著作物といえるのか。
という問題があります。
これはAIを使ったロゴに限りません。
人間が制作したロゴであっても、ロゴだから当然に著作物になるわけではなく、その表現に著作物としての創作性があるかを考える必要があります。
そして、AIを利用してロゴを作った場合には、さらに別の問題が前面に出てきます。
その表現の創作に、人間がどのように関与したのか。
という問題です。
AIロゴでは、不確実な論点が一つ増える
文化庁は、AI生成物の著作物性について、一律に著作物に当たる、あるいは当たらないとするのではなく、個々のAI生成物について具体的に判断する必要があると整理しています。
その際には、人間に創作意図があることに加えて、AIを利用する一連の過程で、人間の行為にどの程度の「創作的寄与」が認められるかなどが問題になります。
ここは、AIロゴを著作権で守ることを考えるうえで重要な点です。
人間だけで制作したロゴにも、
「この表現は著作物といえるのか」
という不確実性があります。
AIを利用した場合には、それに加えて、
「この表現について、人間の創作的寄与はどこまで認められるのか」
という判断が必要になります。
厳密には、AIを使った場合だけ新しい法定要件が一つ追加される、という意味ではありません。
しかし実務上は、著作権による保護を見通すうえで、不確実な論点が一つ増えることになります。
何回生成したか、何文字書いたかでは決まらない
では、どの程度人間が関与すればよいのでしょうか。
ここに、
- 「プロンプトを何文字書けばよい」
- 「何回生成すればよい」
- 「何か所修正すればよい」
といった明確な基準があるわけではありません。
文化庁の整理でも、プロンプトが長いだけで、その内容がアイデアにとどまるのであれば、それだけで創作的寄与が認められるわけではありません。
また、生成を繰り返した回数そのものや、複数の生成物から一つを単に選択したという事実だけで決まるものでもないとされています。
例えば、
「○○社のロゴを作って」
と一度指示し、出てきた一案をほぼそのまま採用した場合。
一方で、生成結果を確認しながら構成や表現について具体的な指示を重ね、さらに人間自身でも創作的な修正を加えた場合。
どちらも「AIで作ったロゴ」と呼ぶことはできます。
しかし、人間がその表現の創作へどのように関与したのかという事情はかなり違います。
一方で、後者なら必ずロゴ全体に著作権が成立する、ということでもありません。
人間がAI生成物に創作的な加筆・修正を行った場合、その加筆・修正部分について著作物性が認められることは考えられますが、ロゴ全体をどこまで保護できるかは、やはり具体的な事情によって判断することになります。
つまり、
「AIだから著作権がない」
でも、
「自分でプロンプトを書いたから著作権がある」
でもありません。
具体的な生成過程と、そこで人間が何を創作したのかを見る必要があります。
この不確実性自体が、実務上のリスクになる
ここで問題になるのは、最終的に著作権が認められるかどうかだけではありません。
著作権によってどこまで守られるのかを、事前にどの程度見通せるのか。
これも実務では重要です。
例えば、事業で長く使用するロゴについて、
「似たデザインを他社に使われたら、著作権で対応できる」
と考えていたとします。
実際に問題が起きたとき、人間が制作したロゴでも、その表現に著作物性があるかは検討する必要があります。
AIロゴでは、それに加えて、
「このAI生成物について、人間の創作的寄与はどこまで認められるのか」
という問題まで検討しなければならない場合があります。
しかも、その判断を単純な数値や形式的な作業の有無だけで確定することはできません。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」も、それ自体が法的拘束力を持つものではなく、生成AIと著作権について判例・裁判例の蓄積が乏しい状況を踏まえて整理されたものです。
したがって、
AIで作ったロゴには著作権がない、ということがリスクなのではありません。
そうではなく、
著作権による保護を期待するときに、その成立や保護範囲について検討すべき不確実な要素が増えること。
そこにAIロゴの一つの法的な脆弱性があります。
事業で長期間使用するブランドマークであれば、「権利がある可能性がある」ことと、「その権利をどの程度確実に見通せるか」は、分けて考えた方がよいでしょう。
利用規約と第三者の権利も、さらに別の問題
著作権の問題を確認すれば、それですべて終わるわけでもありません。
例えば、
「利用した生成AIサービスの条件上、その生成物を事業で利用できるか」
という問題があります。
これは、サービス提供者と利用者との契約・利用条件の問題です。
一方、
「生成されたロゴが、他人の著作物や登録商標などの権利を侵害していないか」
という問題もあります。
これは、自分にどのような権利があるかという問題とは別です。
文化庁も、AI生成物自体が著作物となるかという問題と、その生成・利用が既存著作物の著作権を侵害するかという問題を分けて整理しています。AIを利用した場合の著作権侵害についても、基本的には既存著作物との類似性や依拠性などによって判断するとされています。
したがって、
- 商標登録されているか
- そのロゴ自体に著作権が成立するか
- 利用したAIサービスの条件で使用できるか
- 第三者の権利を侵害していないか
は、それぞれ別に確認する問題です。
「権利がある」を一つの言葉で済ませない
AIで作ったロゴについて商標登録ができた。
それは、一つの権利を確保したという意味では重要です。
しかし、それによって、その図柄について別の権利まで当然に確定するわけではありません。
商標権については、何を商標として、どの商品・サービスについて登録したのかを見る。
著作権については、その表現が著作物といえるのかを見る。
AIを利用しているのであれば、さらに、人間がその表現の創作にどのように関与したのかを見る。
そして、利用規約や第三者の既存権利については、それぞれ別に確認する。
同じ一枚のロゴを見ていても、問いは一つではありません。
特にAIロゴでは、著作権について、人間の創作的寄与という個別具体的な判断が加わります。
そのため、著作権による保護の見通しには、通常のロゴとは異なる不確実性が生じることがあります。
商標登録できたから、ロゴについての権利問題がすべて終わった、と考えない。
AIロゴだからこそ、
「いま、何の権利について確認しているのか」
を一つずつ分けて考えることが大切です。
本シリーズのブログ記事です。こちらもよろしければご参照ください。
・AIで作ったロゴは、本当に「気持ち悪い」のか
・上手なのに、覚えられない――AIロゴで気になる「平均化」
・「似ていない」と「違って見える」は同じではない――商標とブランドの距離
・ロゴを24pxにしてみる――小さくしてもブランドは残るか
・その会社らしさを、AIに渡せているか――「それらしいロゴ」ができる理由
・AIで作ったロゴ、どの形で商標登録するか
・では、ブランドマークにAIをどう使うか――「作る」より「どこを任せるか」
